23日目:進むべきか否か

 神聖歴六一〇二年・皋竜こうりゅうの月第六日・天気:多分雨


 うぅ……ダンジョンがこんなに辛いなんて。


 まさか本当にダンジョンで野宿するとか。

 しかし、安全な場所なんてありません。……つまり休憩は命懸けです。

 交代で仮眠を取ったのですが、私は目を閉じて座っているのがやっとでした。

 目を閉じると様々な音が今までより鮮明に聞こえてきます。何かを砕く音や、蟻の足音、悲鳴っぽい声……寝れる訳がないのです。

 それでも無理して休むのですが、体力は回復しても精神はごっそり疲弊した気がします。

 エルさん達は慣れているのか、平気な様子で仮眠してましたけど……私がその境地へ至れるのはいつでしょうね。


 現在は第一〇階層辺りを進んでいます。

 この辺りになると、働き蟻でも割と強いはずなんですが……エルさん、そんな事を全く感じさせずに淡々と斬り捨てていきます。

 ……エルフってもっとこう魔術とか弓を使うイメージがあったんですけど……彼女を見ていると自分の中の認識がぶれますね。

 あ、でもハーフエルフだからですかね? ……もう少し仲良くなったら聞いてみましょう。


 そんなエルさんが唐突に立ち止ります。

 難しい顔をして前方を睨んでいますけど……。

 何かゴーッという音がしますね。気になって見てみると、呆然となりました。

 どこからか水が流れて来ています。しかも、かなり勢いがありますよこれ!?

 まさか渡るとか、ないですよね……? いや、普通に無理ですよ……。

 不安になってマルガさんを見やると、苦虫を噛み潰したような表情で頭を掻いています。


 聞けば、地図にはこんな場所に水が流れている記載はないそうです。

 では目の前のこれは何なのか?

 マルガさんの推測では、地上で大雨が降っているのだろうという事でした。

 ダンジョンは基本的に地下構造物です。雨が降れば場所によっては当然、それが流れ込みます。

 その結果、今のような事になっているのだろうと……。

 ……そんな事が……あ、だからですか!! 雨の日に冒険者が仕事をしないのって!? ……雨が嫌でサボっているわけではなかったんですね。


 ここで緊急会議が開かれました。

 問題は別ルートで進むか否か。

 エルさんもマルガさんも非情に厳しい表情をしています。

 その最大の理由は、仮に進む事は出来ても、下層の状況がまるで分からない事。

 最悪、これに流された各階層の蟻達が一か所に溜まり、いわゆるモンスターハウス化している場合もあるそうです。

 逆に、戻るにしても雨が降り続いた場合、水が流れ込む入口付近は、ここの比ではない程の激流になっている事も考えられました。


 話し合いの末、まずは一旦上の階層に戻り水の流れがどうなっているか確認する事になりました。それ次第で今後の方針を決めるそうです。


 出発する瞬間、マルガさんが何気ない風に言ってきます。

 他ルートも確認しつつ行くから、今日はこの階層か上のどちらかで野宿だよって。

 ……うぅ、もしかしたら今日中に帰れるかもと思ったのに……辛いです。




今日の収支

(ダンジョン探索中)

――――――――

残金:銅貨49枚



(_ _;)…パタリ 眠い、お風呂入りたい、お肉食べたい……帰りたい……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る