3日目:おのれ、ナメーク!!

 神聖歴六一〇二年・月兎の月第一六日・天気:曇


 何とか、何とか無事朝を迎え、街に帰って来ました。

 ……夜明け前に野犬の群れに囲まれた時はどうなる事かと思いましたけど、人間やれば出来るものです。

 あと、狼じゃないだけマシでしたね。狼だったら、多分、うん……この日記帳もきっと彼らのお腹の中です。

(でも、狼だったら素材がお金になったのです……むぅ)


 任務報告の為にギルドへ向かうと、受付のお姉さんに大変心配されました。

 薬草採取へ行って、その日に帰って来ない冒険者は私が初めてだそうです。

 御心配をおかけしました、でもどうかそんな可哀想なモノを見る目はお止め下さい。私だって野宿の予定はなかったのです。


 そして、ここで思わぬ悲劇が私を襲いました。

 折角摘んできたモミジャ草四袋の内、一袋にナメーク(モミジャ草を食べる。湿った土地に棲息する。ヌチャットして気持ち悪い)が入り込んでいたらしく、駄目になっていたのです……。おのれ、ナメーク!!

 そのせいで、クエストは一つ失敗扱いになり、違約金まで取られてしまいました……辛いです。

 結局、二日も掛かった割には、全く稼げませんでした。


 まだ昼だったので、お金を稼がねばと新しい任務を受注しようとすると、ギルドのお姉さんにやんわりと止められました。

 何故、何故止めるんですか! 今度は大丈夫なのです!! 今度はしっかり野宿セットを持っていくのです!

 あ、そういう事ではない……すみません。

 仕方がないので、今日はゆっくり休みます、と言うとお姉さんはニッコリ笑ってくれました。

 その笑顔は卑怯です……そういう訳で、今日のクエストはお休みです。


 今は格安宿屋に泊り、日記をつけています。

 お金に余裕はないけれど、ベッドに寝たかったのです。

 部屋は埃っぽいし、カビ臭いですけど、二日続けて野宿よりマシなのです。

 というか街中で野宿とか、それは単なる駄目な子だと、私は思うのです!!

 あ、丁度食事の時間のようです。銅貨七枚と安い割にしっかり夕食を出してくれる所は評価できます。

 一旦、筆を置いて食べてきます。


 ――もう、ここには泊らないのです。

 パンが岩みたいなのです、スープが塩辛いのです、お肉がというよりあれは筋なのです……。

 顎が疲れました。食事でくたびれるとか人生初です。

 明日こそ、まともなパンやスープ、お肉が食べたいです。あ、でもお金……世知辛いです。


 せめて夢の中では御馳走を食べたいので、今日は早めに寝る事にします。明日は今日の分も働かなくてはいけません。

 にしてもこのベッド、なんだか体がむずむずするのです……寝難いです……。



今日の収支

銅貨:+5枚(任務報酬)

   +2枚(モミジャ草一袋買取)

   -3枚(任務失敗違約金)

   -7枚(宿泊料)

――――――――

残金:銀貨2枚、銅貨12枚



( ̄へ ̄|||) また、微妙にお金が減ったのです……誰です? 冒険者は普通の職より儲かるって言った人!! 嘘なのです!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る