014.イン ザ パーティー

「アキトさん、コップ受け取ったし乾杯よろしくな!」


 一斉に村人の視線が俺に突き刺さる。


「え? まじか? えーっと何だ? とりあえず、かんぱーい」


 村人達も俺の言葉の後に、コップを掲げた。

 その場には、乾杯の言葉が重なって響き渡る。


 気付けばメラルという名の少女は側にはいなかった。

 訂正する事も出来ずに始まった宴会。

 俺達の席は誕生日席と呼ばれる場所。

 そこに俺とリラの二人分の椅子。


 渡されたコップには白い半透明の液体が注がれていた。

 上のほうはビールのように泡が形成されている。

 一口飲んでみると、甘さの中に微かな苦味が感じられた。

 アルコール飲料のようだが度数はさほど高くないだろう。


「これは白虎麦酒(ハクコバクシュ)って言う飲み物なんだよ」


 ドヤ顔でそう説明するリラさん。

 それはそれで可愛いんだけどね。

 でも俺は未成年・・。

 いや、異世界に俺の世界の常識を当てはめるのは間違いか。


「テテチさんあーんして下さいね」


 そんな声が聞こえたので、声をした方に視線を向けてみた。

 若干顔を赤らめているテテチさん。

 フォークに差された鳥肉っぽいのを、啄ばもうとしている。

 さすがにこの人前で、リリラさんに甲斐甲斐しく世話を焼かれるのは恥ずかしいらしい。


 酸味のある、果実ソースっぽいもので味付けされた、豚肉らしきもの。

 咀嚼しつつ二人の光景を眺めている俺。

 良く見れば差異はあれども、車椅子チームは、誰かしらの世話を受けて食事をしている。

 さすがに白虎麦酒(ハクコバクシュ)ではなく、白萄茶(ハクドウチャ)っぽいのを飲んでいるようだけど。


「アキトさん、あーん」


 俺がその光景を眺めていたせいだろうか?

 隣のリラから突如そんな声が聞こえた。


「あーんだよ」


 俺の口元に運ばれた、スプーンに掬われた黄色い液体。

 羨ましそうに見てるように見られたんだろうか?

 そんなつもりはなかったんだけどな。


「あーんなんだから」


 三度目のリラの呟き。

 うん、わかったよ食べるよ。

 口に含んだ黄色い液体は、パンプキンスープのようだ。

 独特の甘味が口の中に広がる。


「次はアキトさんがしてね」


 少し照れたような、嬉しそうなむず痒いような顔で、見つめないで下さい。

 わかりましたよ。

 やりますよ、やればいいんでしょ?


 フォークに刺した塩味のしそうな鳥肉っぽいもの。

 リラの口元に差し出した。

 たぶんきっと今、俺情けない顔してると思う。

 パクッと小さな口で一口で頬張るリラさん。

 何だかとてもとっても嬉しそうなので良しとしようか。


「おいしいよ。アキトさん!!」


 傍から見ればいちゃついてるようにしか見えない俺達二人。

 タイミングを見計らって順番に挨拶に来る村人達。

 こうして宴会は進んでいく。


 アルコールが回っているのだろう。

 赤ら顔で俺の腕にしがみ付き、控えめな胸を押し付けてくるリラ。

 口も饒舌になり、いつの間にか呼び捨てになっていらっしゃる。

 別にいいんですけどね。


 その間もテテチさんを甲斐甲斐しく世話しているリリラさん。

 彼女の瞳の中にある、悲壮な決意にはこの時は誰も気付いていなかった。


 大胆になってきているリラ。

 とうとう俺の膝の上に座り、顔を俺の胸に預け始める。

 半分閉じている瞼。


「リラ、大丈夫か? 眠いんじゃないの?」


「ね・眠くなんかないもん! アキトのいじわる!」


 左様ですか。

 半開きの瞼でそんな事言われても説得力皆無ですよ、リラさん。

 膨れっ面の頬をこれ以上膨らませたくないので、突っ込みませんけどね。


 皆に進められるままに俺も飲んでるから、酔いが少し回ってきてるなあ。

 既に潰れてる人もいるし。

 食べ物も何だかんだでおいしいから食べちゃってるし。


 いやリラさん、その格好はどうなんですか?

 俺と相対するように膝の上で対面で座り直したリラ。

 重い瞼を頑張って開きつつ俺を上目遣いに見てるし。

 これはやばいでしょさすがに?


 彼女の瞼が完全に閉じて体が傾いだ。

 俺の体に寄りかかるように眠ってしまったようだ。


「相変わらず仲睦まじいじゃねぇか?」


 ニタニタと笑いながら俺の直ぐ側に来たのはアラルさん。

 コップいっぱいの白虎麦酒(ハクコバクシュ)を半分飲み干す。


「知ってるか? こんなにリラ様が懐いたのは隊長以外じゃあんただけだぜ。いや隊長以上に懐いてるな」


「え? うそ? まじ?」


「まじだぜ」


 妖しい微笑みのアラルさん。


「そのまま手篭めにしたって誰も何もいわないだろうよ」


 さらっと何言ってるのこの人?


「いや、アラルさんさすがにそれは不味いでしょ?」


「そうか? 隊長は剣片手に襲い掛かってくるかもしれんがな」


「いやいや、それ不味い所じゃないでしょ?」


「あぁアラルでいいぜ。俺も呼び捨てにするけどな。隊長が仮にポンコツじゃなくても、アキトなら余裕じゃねぇの?」


「え? そこなの? 問題そこじゃないでしょ?」


「アラル、あんまりからかうのもどうかと思いますよ」


 助け舟をだしてくれたのはテテルさん。

 テテルさん、ありがとう。


「テテルかよ? いいじゃねぇか? こんなにからかえる光景何て中々ないぜ?」


「程ほどにして下さいよ。アキトさんの逆鱗に触れて、村が滅ぼされでもしたらどうするんですか?」


「あぁ? そうだな。それは困る。考えると怖ぇなおい。からかうなら命がけってか?」


 えっと?

 助け舟なんだよね?

 俺のイメージってどんなのなの?


「あまり、うちのお姫様をそのままにしとくのもあれだから、ベッドに運んでやったらいいんじゃないか? そのまま押し倒しちゃえよ?」


 残りの白虎麦酒(ハクコバクシュ)を一気に飲んだアラルさん。

 それだけ言って去っていった。

 テテルさんは呆れ顔だ。


「相棒が失礼を言って申し訳ない」


「いいえ、テテルさんが謝る事じゃないですよ。とりあえずリラをベッドに運んできますね。ちなみに何処なんでしょう?」


「えっと? 何処でしょうね? しばらく村にいなかったので一応リリラさんに聞いてもらえますか?」


「わかりました」


 抱っこか。

 そう俺はリラを抱っこしている。

 まさかこんな世界でする事になるとは思わなかった。


「リリラさん、リラを寝かせたいのですが、彼女の寝床は何処でしょうか?」


「あらら? 眠ってしまったんですか。嬉しそうな顔で寝てますね」


 まるで妹か娘でも見るかのようなリリラさんの表情。

 よく考えればこの二人、年齢は違うようだけど似てるよな。


「テテチさん、案内してきますね」


「わかった。アキトさんも楽しんで頂けてるようで何よりです」


「ええ、食べ物もおしかったですし。白虎麦酒(ハクコバクシュ)も飲みやすくていい飲み物でした」


「それは何よりです。リリラ、案内を頼んだよ」


「はい、アキトさんそれでは行きましょう」


 そうして案内されたんだが・・・。


「え? いやここって俺の借りてる家ですよね?」


「はい。護衛も兼ねましてリラとここで寝食を共にして頂きますようお願いします」


 うわ?

 まじ?

 そう言われると言い返す言葉が無いじゃないか?


「いや? いいんですか?」


「はい、アキトさんならば問題ないでしょう。リラの着替えを取って来ますね」


 リリラさんは行ってしまった。

 諦めた俺は部屋の中に入り、ベッドの上にリラを寝かせる。

 しばらくして戻って来たリリラさん。

 薄手のネグリジェみたいなのを持ってきた。


 リラのドレスみたいなのを脱がせ始めるリリラさん。

 所在なさげに立っている俺。

 いや、出て行くべきだよな。


「すぐ終わりますので、そこでお待ち下さい」


 心の中で何を思っているのか?

 相変わらず読めない人だな。

 予想通りリラはブラジャーはしてなかった。

 着替えは直ぐに終わったので、見えてたのはそんなに長い時間じゃないけど。


「ウフフ。アキトさん、終わりましたよ」


「え? ん? あ、はい」


 ちなみにベッドのシーツやタオルケットは、洗濯をお願いしてある。

 今敷かれているのは、村から提供されたものだ。

 リラの着用していたドレスっぽいのを片手に、退室しようとするリリラさん。

 突然俺の方を振り向いた。


「アキトさんは広場に戻られますか?」


「ん? いや、俺も寝ようかな」


「わかりました。それではリラの事をよろしくお願いします。彼女には幸せになってもらいたいので」


 最後の方は聞き取るのも一苦労だった。

 きっと呟きのつもりだったんだろうな。


「おやすみなさいませ」


「おやすみ」


 ん?

 ちょっと待て?

 最後の呟きどうゆう意味だ?


 ベッドで幸せそうに眠るリラの寝顔を見ながら考える。

 その言葉は本心だろうが、ここで呟くのは違和感があるような気がした。

 それとも俺が襲うとでも思っているのか?

 いや、襲っていいですよって遠回しに言ってるのか?

 そんな馬鹿な?


 いや、待て。

 そもそも何考えてるんだ俺。

 うん、そうだな。

 寝よう。

 素直に寝るべきだ。

 リラおやすみ。

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