012.筋肉で出来ているような男
「そうか。その可能性も考えていた。とは言え、タイガル国がどうなっているのか確認する時間も無い。行くすれば博打になるか」
そうだな。
テテチさんの言う通りだ。
これで本当八方塞だな。
うん、こうなってしまった以上は、俺がやるしかないか。
俺が考えている事に、リラは間違いなく激怒し反対するだろう。
その為にはまずは情報が欲しい。
「テテチさん、テテルさん、アラルさん、今後の事も考えてドウラ国について教えて欲しいのですがいいですかね?」
「ドウラ国についてですか?」
そこで最初に反応を示したのはテテルさん。
「ドウラ国についてお話しするのは構いませんが、まずは私の話しを聞いてもらえますか?」
待ったをかけたのはテテチさん。
俺はテテチさんの話しを先に聞く事にして頷いた。
「前にも申し上げた通り、アキトさんにリラの護衛をお願いしたい。その目的地について説明していなかったと思いますので」
そう言えばそうだ。
向う先については何も聞いてない。
「そうですね。目的地についてはまだ聞いていませんでしたね」
「私は思ったんです。リラはこの国にいる以上は元王女という肩書きから逃れる事は出来ない。村を興した当初はシャルドナ国の復興を目指していました。もちろん今現状のこの国の状況は憂いてもいます。しかし仮にシャルドナ国を復興したとして果たして改善されるのか?」
しばし沈黙になったテテチさん。
その表情からは、何を思い何を言おうとしているのかは判断出来なかった。
テテルさんもアラルさんも、テテチさんが何を言うのか待っているみたいだ。
「いやこれは言い訳ですね。私は父親代わりとして十年リラを育ててきました。もちろんリリラや他の皆にたくさん助けてもらった事も事実です。村の皆もリラを娘の様に妹の様に思ってくれているんじゃないかと思ってます」
アラルさんとテテルさんは言葉を発する事無く頷く。
「だからリラの幸せを考えるならば、元王女という肩書きが関係なくなる場所へ行くのがいいんじゃないかと思っています」
「確かにそうかもしれませんね」
正直そう思ったので、俺はそのまま答えた。
「アキトさんが護衛してくれるならば、人族の国まで辿り着けると思います。魔族の国も考えましたが、安全面も考慮すれば人族の国の方がまだ大丈夫だと思います」
「それはリラを連れて人族のいる国に向って欲しいという事でいいんですね」
「はい、もちろん道中、特に元シャルドナ国関係者の妨害はあるでしょう。しかしアキトさんが一緒ならば、我々と行くよりも安全性は格段に上がると思います」
「テテチさんの言う事も一理あるでしょう。しかしリラは実際どう考えてるのでしょうね? 護衛は引き受けるつもりですが、今後どうするかはリラ次第だと俺は考えています。その為には、ドウラ国の干渉を止める事が最優先事項だと認識していますね」
「確かにそうですが、我々には正直抗うだけの力はありません。使者を立てて抗議した所で門前払いにされるだけでしょう。どうするおつもりですか?」
「俺が黒き鬼として向えばどうでしょうね?」
たぶん妖しい微笑みになっているんだろうな。
そう自覚しながらそう俺は口にした。
その言葉に、三人は予想通り驚愕の表情になる。
「アキトさん、あなたの強さはわかります・・・わかりますが、しかしドウラ国に向うというのは?」
驚きの眼差しで俺を問い詰めるテテチさん。
「言葉の通りです。直ぐにドウラ国に俺が向かえば、ここで起きた事が伝わる前に辿り着ける可能性が高いと思います」
「し・しかし・・・」
何を言おうとしたのだろうか?
それとも言葉が出てこなかったのだろうか?
テテチさんは言い淀んだ。
「もちろん俺がいない間、ドウラ国以外の干渉がないと断言は出来ませんので、その準備はして行くつもりです。実際ドウラ国がどんな国で王がどんな相手なのか俺にはわかりません。しかしドウラ国に着いた上で、その主力部隊を叩きのめせば、黒き鬼と勝手に解釈してくれるんじゃないですかね? そうすれば交渉する余地は生まれると思うんですよ」
「・・・私の知るドウナ国の王サウザン・ドウナは正直筋肉で出来ているような男です。智謀知略の類は不得手である以上、状況を冷静に分析して素直に従うかどうか?」
一転しんみりと過去を思い出すかのように語るテテチさん。
その間、テテルさんもアラルさんも無言。
「力だけは元八戦士で一番でした。激昂する可能性のほうが高いと思います」
「それならばその方が話しは早い。叩きのめすまでですよ」
「・・・それではアキトさんが一国に喧嘩を売る事になってしまいます・・・」
「たい・・テテチさんの気持ちもわかるけどよ? 現状俺達は八方塞のようなもんなんだろ? それならその無謀な策に賭けて見るのも一興かもな、一驚になったらなったで面白いじゃねぇか?」
それまで聞きに徹してたアラルさんは俺に賛成のようだ。
「そうですね。博打に近い要素もありますが、成功さえすれば他の国も迂闊に手は出せなくなるでしょう。過去の黒き鬼の話しもありますし。その逆鱗に触れれば国ごと滅ばされるかもしれないと危機感を抱けば、リラさ・・リラが王女の血を引いているとはいえ、国と引き換えにする可能性と天秤にかけるでしょうか? 逆に言えば失敗は許されない策にもなりますが、単独で二百の軍勢を掠り傷程度で全滅させる程ですし、問題はないと思います」
テテルさんは、石橋を叩いて確認に確認を重ねて渡りそうな印象。
正直、彼が乗って来るとは思わなかった。
「もちろん、聞いた限りではリラ様・・リラはアキトさんにかなり懐いているので、反対するでしょうが」
テテルさんの言う通りそこが一番の問題だ。
話せば自身が原因の問題である以上、くっついて来そうだし。
説得出来る自信も無い。
「しかしあれだよな? 聞いただけの話しだけどもよ? あんだけ隊・・テテチさん以外の男性陣と壁を作っていたのに、懐柔しちゃうなんてな。やるじゃねぇか?」
何だろうか?
これは褒められているのか?
余り嬉しくないんですけど。
「アキトさん本気なんですね?」
真摯な眼差しで俺を見るテテチさん。
俺もテテチさんと視線をぶつける。
「本気ですよ。じゃなければこんな事言いませんよ」
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「リリラ姉手伝って欲しい事ってなーに?」
「これよ」
「これって言われても何? 黒い布?」
「アキトさんの服を縫うのよ。リラ得意でしょ?」
「え? う・うん? でも皆がいるのは何で?」
「分業する為に決まっているじゃない!」
そこにはリラとリリラを含めて村の若い女性陣が七名。
「皆も協力したいって事だから。私も含めてこき使ってね」
そう言うとリリラはリラに片目を瞑って見せた。
彼女に合わせて他の五名も真似する。
「そんな事言われてもデザインから考えないといけないのに?」
「アキトさんの動きを阻害しない程度でリラが着て欲しいデザインでいいじゃない」
「そんな事言われても簡単に出来ないよ・・・」
「それじゃちゃんとしたデザインのは後々作るとして、まずはこの村で生活するのに必要な服を作りましょうよ」
「う? うん、わ・わかった」
こうしてはじまったアキトの服作り。
何だかんだで和気藹々と楽しそうな彼女達。
リラは、アキトがこの村で一緒に住んでくれると思っている。
その勘違いの原因はリリラにもあった。
ほんの一瞬だけ悲壮な決意を浮かべているような瞳をしたリリラ。
まるで何かを振り払うかのように皆に発破をかける。
「村を救ってくれた勇者様に、いつまでもあんな貧相な格好させるわけにもいかないからね。夕食までに一着は完成させるわよ!」
「リリラさん、さすがに無理ですよ」
リラの指示で布を縫い合わせている一人がそう零した。
諌めるようにリラも口を開く。
「もう、リリラ姉無茶言わないの!」
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