011.二人の帰還者

 結局俺は、正直にリラに話す事を選択した。

 正直、彼女がどう思うかは未知数だけど。


「たぶん信じられない話しだと思うし、俺自身も半信半疑なんだけど」


「大丈夫です。信じますよ」


 そうは言われても躊躇はしてしまう。

 逆の立場で俺が聞かされれば、おそらく信じない。


「いつも通り自分の家のベッドで寝たんだけどさ。朝目覚めると知らない湖の側にいたんだ。ベッドと一緒にね」


「はい」


 簡潔に反応したのは相槌のつもりだろう。

 リラは至極真面目な顔で俺の話しを聞いている。


「見知らぬ土地で突然サバイバルが始まったのさ。森にいる動物を刈ったり、魚を獲ったりして何とか生きてた。そしてリラに出会い、この村に関わっていった。それで思ったんだ。俺は異世界へ飛ばされたんじゃないかってね」


「えっと、アキトさんが、生まれた場所とは違う場所に来てしまったって事ですか?」


「うんまぁ、簡潔に言えばそうだね。俺が住んでたのは地球って星の日本っていう場所なんだけど。ここは何て星の何て場所なんだい」


「星・・・はわかりませんけど、バルルリ村。私達の言葉で守護者という意味らしいです」


「そうか。バルルリ村とかタイガル国とかドウナ国とか、俺の覚えている限りではそんな地名ないんだよね」


「そうなんですか」


「うん、だから異世界に来てしまったと考えるのが、荒唐無稽なんだけども事実なんじゃないかと思ってるのさ」


「アキトさんがそう言うのならばそれが真実なのでしょうね」


 リラさん、驚きも何もありませんですね。

 意味は理解してるとは思う。

 もしかして、理解してなかったりするんでしょうか?


「だから今後言葉が通じない事とか、この国の常識とか、いろいろと困るんじゃないかなと思ってたんだけど。言葉は通じるみたいだね。ジャパパネ語だっけ?」


「はい、ジャパパネ語です」


「そのジャパパネ語が俺の国の言葉、日本語とそっくりみたいなんだよね。でもさっきの話しではバルルリというのもそうって事なんだろ?」


「いえ、バルルリというのはまた別です」


「ん?」


 どうゆう事だ?


「元々は私達は違う言語を使っていたそうです。でも黒き鬼が統一した後にジャパパネ語を広めたと言われているんです」


「それじゃあ、ある程度知識があれば、どの種族でも通じる可能性が高いって事?」


「たぶん。私はこの村から外の世界に行った事はないのですが、村に訪れる他種族が使ってるのを聞いた事はあります」


「そうかそれなら言語の問題は大丈夫かな。しかし黒き鬼が広めたのか・・・」


 そこである可能性を考えた。

 けど、証拠もなければ根拠も薄い。

 なのでリラには言わなかった。


「たぶん人族の国や魔族の国に行けば、私達が知ってるよりも、多くのお話しが聞けると思いますよ」


 俺の思った事を理解したのか理解してないのか?

 わからないが、タイミングいいお言葉ですね。


「黒き鬼の真実はちょっと気になるけど、とりあえずはドウラ国か」


「・・・私がいなければこんな事にはならなかっ―」


 そう言いかけたリラの言葉に被せるように、俺は思わず口を開いた。


「それは違うと思うぞ。テテチさんも村の皆も、リラを守りたいと思ったからそうしたと思う。ただの義務とか義理とかなら命をかけてまでしないだろうさ」


「え? う・うん。そうだね」


 最初はあんなに怯えていた。

 なのに普通に話してもらえるのは、なんか嬉しいな。

 本人には言えないけど。

 言えば気にしそうだし。


「何とかこの村を守る事は出来ないのかな?」


 実質リラの故郷のようなものだし、そう思うのは当然だよな。


「村を守るか。ドウラ国がどんな国なのかにもよるけど、存在しな・・いやそれはそれで後々問題になりそうな気も・・・」


「アキトさん・・それはさすがに無茶なんじゃないかな? かな?」


 何か忘れたけど、そんな話し方のキャラクターいたような気が。

 あぁ、くそぅ。

 アニメの続きが見れないじゃないか。


 ツインテールの妾っ娘がどうなったのか?

 夜型ロリ幼女と主人公の戦いの結果がどうなるのか?

 気になるけど、見れないじゃないか・・・。


 ・・・。

 ・・・。

 おっとそんな事考えてる場合じゃなかった。


「リラ、気晴らしも兼ねてこの村を案内してくれないか?」


「え?うん、わかった」


 唐突な俺の言葉にも素直に答えてくれるリラ。

 俺が動き回るのは問題あるかもなとも考えた。

 けど、リラの気分をリフレッシュする意味もこめた提案。

 思ったほど怯えられる事はなく、逆に感謝の言葉を掛けられる事が大半だった。


 いやこれはこれで逆にむず痒い思いでしたよ。

 本当にさ。

 でもリラが嬉しそうに笑顔になっていたし、目的は達成したと言えるかな。


-----------------------------------------


 バルルリ村、人口三十二人の小規模な村。

 そのうち非戦闘員がリラとリリラさん含めて十五名。

 何らかの戦闘技術を持っているのが十七名。

 うち二名は、リラ曰く遠方に旅に出てるそうだ。


 テテチさんの指示による密命とかだったりするのかもね。

 そして現在戦闘可能なのは五名。

 十名は怪我が酷く、十一日程度で完治するとは思えない。

 もしドウラ国なりなんなりが再び攻めてくれば、篭城しかない。

 周囲を壁が囲んでいるとはいえ、そう長くは持たないだろうな。

 八方塞って奴だ。


「なあリラ、何か戦う術は持ってるのか?」


「え? 私ですか?」


「そう、リラ」


「魔法を少し齧っている程度です。ごめんなさい」


「いや、謝る必要はないけどさ」


「は・はい」


「やっぱ俺がドウナ国へ乗り込むか?」


「え? 駄目です。アキトさんが強いのは理解してます。でもそれでも無謀過ぎですよ・・・」


 そんな尻すぼみに、あからさまに不安な顔になられると困るな。


「心配してくれるのは嬉しいけどさ・・・」


「アキトさんは強いよ。きっとアキトさんなら出来ちゃうと思うよ。でも待ってる私は心配で心配で壊れちゃいそうなんだから」


「ん?」


 囁き声みたいで最後の方聞こえなかったんですが。

 何て言ったんでしょうかね?


「な・何でもないもん」


 リラさん、そんな拗ねた様な声で何で赤らんでいらっしゃるんでしょうか?

 突っ込んだ方がよろしいのでしょうか?


「リラいるー?」


 玄関の扉越しに聞こえてきたリリラさんの声。

 その声にビクンと面白い反応を示したリラ。

 そのまま何も答えないのでかわりに答えた。


「リリラさん、リラならいるよ。遠慮せずはいってくればいいのに」


「アキトの馬鹿」


 リラが何か言ったようだがボソボソ声でわからない。

 馬鹿って聞こえた気もするけど、きっと気のせいだろう。


「リラ、いるなら答えてよ。手伝って欲しい事があるんだけど? アキトさん、リラをお借りしてもいいでしょうか?」


 え?

 何故俺に聞くの?


「リラどうしたの? そんなに顔赤らめて?」


 リリラさん、邪な微笑みになっているのは気のせいでしょうか?


「な・何でもないもん。リリラ姉わかったよ」


 あいかわらず拗ねた様な声のリラ。

 リリラさんの手を引っ張って出て行ってしまった。


「ちょっとリラ本当どうしたのよ? あ、アキトさんテテチさんがお呼びです。申し訳有りませんがご足労お願いしてもよろしいですか?」


「ん? わかりました。すぐ向いますね」


 リラに引っ張られて行ってしまったので、俺の声が聞こえていたかは謎。


-----------------------------------------


「アキトさん、実はドウラ国からの干渉が始まって直ぐ、第二候補の元伍戦士長の国、シャルルアンのシャルルアン・フランベリカの元に、この二人、テテルとアラルを向わせていたのですが・・・」


 テテルさんは美男子系の顔立ちで、アラルさんは野性的な顔立ち。

 見た目的に正反対な感じを受ける。


「アキト様、始めまして。テテチ隊長よりお話しお伺いしております」


 美男子系のテテルさんが最初に口を開いた。


「村をリラ様を救って頂いてありがとうございます」


 一礼したテテルさん。

 野性的な顔立ちのアラルさんは、その後に口を開いた。


「アキト様、アラルだ。お見知りおきよろしく。まあなんだ? ありがとう。アキト様がいなきゃテテチ隊長も死んでたらしいし、村も終わってたっぽい。まじありがと」


 アラルさんフランクだな。

 どっちかと言われるとアラルさんの方が気が合いそうだ。

 それにしてもテテチさん、心なしか絶望的な顔してるな。


「テテチ隊長、アキト様にも聞かせてよろしいのですね?」


「もちろんだ。それとな二人とも村にいる時は隊長はやめろと言ってるだろうに」


「申し訳ありません」


「わりい」


 テテルさんに続いてアラルさんの侘びの言葉。

 本当対照的だな。


「それでですが・・・」


 言い淀むテテルさん。

 悪い報告なんだろうな。

 何となく予想はつく。


「門前払いでシャルルアン様の顔を見る事も出来ないまま、戻って来た次第です。申し訳有りません」


「本当、門前払いしなくてもいいじゃねぇか。かつて何度も顔会わせてる筈なのによ」


「アラル、言葉遣いいい加減直しなさい」


「ん? 今更もう直らねぇよ。テテルみたいに頭良くねぇしな」


 何この二人の遣り取り。

 ちょっと面白い。


「こほん、とりあえず報告ご苦労。門前払いという事は、仮に我々がいっても相手にされない可能性が高いという事だな」


「あぁ、隊長その可能性が高いと思うぜ」


「その点に関してはアラルと同意見です」


 アラルさんもテテルさんも悔しそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る