008.彼の意志、彼女の気持ち
黒牙 晶人(クロガ アキト)が関わったバルルリ村。
紆余曲折を経て結果的に助けることになった。
テテチ・バルヴァルを村長としてこの村が成立。
それはよそ十年前になる。
地理的にはドウナ国とタイガル国の国境線沿い。
そのタイガル国の領土内に存在した。
村の住人とタイガル国の王家との繋がりも深い。
人数的には小規模な村になる。
それでも、ドウナ国やその他の周囲の国からの干渉。
この十年間ほぼなかった。
もし干渉してしまえば領土審判になってしまう。
そうなれば、タイガル国との全面戦争になりかねないからだ。
タイガル国は基本平和主義の国。
その代わり、一度でもその逆鱗に触れれば容赦のしない国である。
何よりも白虎人(ホワイトウェアタイガー)を筆頭に、個々でも強力な力を持つ虎人族(ウェアタイガーゾク)の国。
国の形を一応為している。
そうは言えども、ドウナ国では到底相手にならない。
だが逆鱗に触れることも構わずに、サウザンは今回バルルリ村を襲撃した。
その意味は非情に重い。
私室にて簡易なベッドに寝ているテテチはそう考えていた。
タイガル国と戦争しても勝てるだけの力を手に入れたのだろうか?
相対した彼等の戦士達の練度から考えればそうは思えない。
そうなると、タイガル国に何かが起きているという事か?
しかし情報のない状態では、彼の思考は堂々巡り。
アキトがリラを伴って訪れるまで、その答えが出る事はなかった。
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一通り血を洗い流し、ゆっくりと俺は浸かっている。
残念ながら水にだけど。
普段シャワーで済ませていた。
でもこんな所を見ると、水を温めて風呂にしてはいりたくなるな。
魔術を使えば出来そうな気がする。
一仕事終わった安堵感と妄想にひたっていた為、反応が遅れた。
背後から忍び寄る影。
気付けば俺の体は少し前に進んでいたみたいだ。
背中側に空間が空いていた。
まるで狙い済ましたかのように飛び込んできた何か。
水飛沫が飛び散る。
俺の首に回される白い手。
背中に当たる控えめな膨らみ。
いや、嬉しくないと言えば嘘になる。
けど、まさかこんな展開になるとは思わなかった。
「アキトさん、おまたせー!」
いや、リラさん。
おまたせって何がおまたせなんですか・・・。
俺の頬にすりすりしてきたリラは、とても嬉しそうだ。
何がそんなに嬉しいのか良くわからない。
突然感じていたリラの温もりが離れた。
「うふふ」
ロリコン趣味はないつもりだけど、そんな声出されるとちょっと困る。
そんな気はしてたけど、彼女は一糸纏わぬ姿だ。
俺の足の上に座ろうとしたので、無意識に胡坐を解いて座れるようにしていた。
かわいいお尻が丸見えですよ。
俺に背を向けるように座ったリラ。
頭を俺の胸に預けるように寄りかからせてきた。
そして俺の手に自分の右手を重ねる。
「アキトさんの体って結構筋肉質なんだね」
左手で俺の足を弄りながらそんな事を言ってきた。
「アキトさん、心配したんだから。いくら強いってわかっていても心配で心配で」
「心配してくれてたのか?」
「だって・・・一人であんなたくさんの・・・。それにアキトさんが私達にそこまでしてくれる必要なんて何もないじゃない。でも凄く嬉しかった。凄い優しい人なんだって思った。黒き鬼とか言って怯えてごめんなさい」
そう言うリラの顔は、心なしか赤らんでいる気がした。
申し訳なさそうでもある。
「俺はそんな出来た奴じゃないよ」
「ううん、そんな事ない。怯えてる私に優しく話しかけようとしてくれたりしてた。あの時はわからなかったけど、今思えば私凄く失礼な事してた」
立ち上がって足から下りたリラ。
半回転して突然こっちを向くと、座った。
前からも丸見えですよ、リラさん。
恥ずかしくないんですか?
「ごめんなさい。それとありがとうございました」
真摯に頭を下げてそう言ったリラ。
俺は邪な感情を抱きかけていた。
でも湧き上がるものはしょうがないじゃないか?
しばらくして頭を上げたリラ。
さすがにその裸を凝視するのもどうかと思う。
視線を逸らしてしまった。
「リラ、ところでさ。恥ずかしくないの?」
「・・・恥ずかしいよ。でも男の人は女の人の体見て喜ぶんだよね? 私何かアキトさんにお礼がしたかった。だけど出来る事なんて何もないし。パパだって見た事ないしアキトさんがはじめてだよ」
後半は羞恥心からか、尻すぼみになっていたけど。
「それとも私の裸なんかじゃ見ても嬉しくないの?」
そんな涙ぐんだ目で見られると、俺が悪い事しているみたいじゃないか?
白い肌に小ぶりな膨らみかけの胸。
ほっそりとしてスタイルも悪くはない。
いやいやいや、何考えてるんだ?
実際これ犯罪か?
そもそもリラっていくつなんだ?
あーもう、やばい思考回路が破綻してきてる・・・。
「いや、もちろんリラは可愛いし白い肌も体も可愛いよ。でもそんなかわいい顔で涙ぐまれると、いろいろしたくなるじゃないか?」
「いろいろ? いろいろって何?」
「え? いろいろはいろいろ。リラはきっとまだ知らなくていい事じゃないかな?」
「え? そうなんだ? 気になるけど、アキトさんがそう言うなら聞かない」
「そうしてくれると助かる。さてとテテチさんも待っていると思うし、そろそろいくよ」
「えー? もっとアキトさんとお話ししたかったな」
「話しをする時間ならこれから作れるさ」
「はーい。わかった」
「ところで男の人が女の人の裸を見ると喜ぶって誰に聞いたんだ?」
「リリラ姉だよ」
あの妖しい微笑みはこれの事か。
小さい方の服はリラのってことね。
リリラさん何を思ってそんな事言ったんだろうか?
その心の内に何を秘めているのか?
正直とても怖い。
それにしても危ない危ない。
あやうく理性を失う所だった。
こんな展開は予想の斜め上どころじゃないな。
水からあがり、タオルで体を拭いた俺。
用意された服を着ようとした。
その光景を後ろから見ているリラが突然声を上げる。
「アキトさん、怪我してる!? 手当てしなきゃ。服着ないでそのまま待っててね」
裸のまま、リラは慌てたように棚の上にある木箱を持ってきた。
中身は包帯や何かの薬のようなものが入っている。
どうやら体を綺麗にした後に、手当てが出来るように置いてあるのだろう。
裸で恥ずかしいのも忘れて、リラは薬の入った瓶の一つと包帯を持って俺の側に走ってきた。
「染みるかもしれないけど」
「大した怪我じゃないし。大丈夫だよ」
その位置は、正直若干目線のやり場に困る。
完全に見てしまった後だし、今更視線逸らしても無意味か。
「駄目です。ちょっとした怪我でも治療はちゃんとしなきゃ駄目!」
そう言うリラの目は真剣だ。
綺麗な白い肌で俺を真直ぐ見据える彼女。
俺の怪我の事で頭が一杯なのだろうか?
自分が裸なのもすっかり忘れているみたい。
「ジットしてて下さいね」
熱意と視線に負けて、俺はおとなしくその場に座った。
リラが塗り薬を塗り始める。
薬を塗る為に、俺の肌を優しく撫でる白い指先。
確かに少し染みた。
そのかすかな痛みが理性を保ってくれていたのかもしれない。
手当てが終わるまで、俺は理性と本能の鬩ぎ合いに俺は苦しめられていた。
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ベッドで上半身を起しているテテチさん。
俺はリラとリリラの三人で椅子に座っている。
「アキトさん、まずはありがとうございます。あなたがいなければこの村は無くなっていた事でしょう。村を代表して感謝を」
「いえ、俺は別に村の為にしたわけじゃないですから。自分がそうしたいと思ったからしただけです。そこまで感謝される必要もないですよ」
「それでも結果的に村は救われたのです。お礼を言わせてください。ありがとうございました」
そこでリラとリリラさんも立ち上がり、俺の方へ向き直る。
テテチさんが頭を下げた。
「「ありがとうございました」」
彼に合わせるように、二人でハーモニーを奏でつつ下げられた頭。
正直俺は、反応に困っている。
三人ともしばらくそのまま頭を下げていた。
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