007.黒き鬼
「奴の遠距離攻撃はやばいぞ。撃たせる前に攻めろ」
あ、やばいな。
動き出してしまった。
それでも毎夜、消費した分は補充をちゃんとしていた。
残りの弾数は九発。
マガジンを入れ替えれば更に追加で十発。
問題なく撃破出来るのは確認した。
次に近いオーガっぽい奴に発砲。
さすがに距離があったか、躱された。
それならこれでどうだ?
足元目掛けて撃つ。
射線上にいる醜小鬼(アグリゴブリン)を貫通して行く。
更にオーガっぽい奴の足を貫通したようだ。
奴の体が傾いで地面に落ちた。
その衝撃で、吹き飛ばされたり潰されたのもいるだろう。
更に止めとばかりに頭があるあたりに一発。
結局五発撃ち、オーガっぽい奴は残り二体。
≪火嵐(ファイアストーム)≫
前方から来る一団に、魔術を叩き込んだ俺。
梓に力をこめて左側から攻め始めた。
こちらの動きに反応出来ないのは既にわかっている。
それでも常識的に考えて一対二百強だ。
正面から真面目にぶつかるのは得策ではない。
もう少し時間があれば、もう少し違ったかもしれない。
何かしらの罠や策略を巡らす事が出来たんだろうな。
そんな事を考えながらどんどん屠っていく。
右側の一団が動き出した。
俺を無視して村に入ろうとしているようだ。
急いで向い斬り裂いていく。
今度はそこに氷の飛礫が降り注いだ。
魔術師までいるのかよ?
俺は攻撃のみに力を行使している。
その為、躱しきれない飛礫に、何箇所か切り傷を負ってしまった。
しかし、味方も巻き込んで攻撃してくるとか酷くね?
それまで村目掛けて放たれていた矢も、狙いを俺に変えてきた。
近くにいる醜小鬼(アグリゴブリン)も巻き込んでいく。
百近い矢が俺目掛けて降り注いで来る。
防御には力を回していない以上、喰らう訳にはいかない。
だけど、さすがに数が多すぎる。
梓に力を溜めて斬撃を飛ばした。
しかし、一度に全てを消し飛ばすのは無理だ。
時に醜小鬼(アグリゴブリン)を盾にして防ぐ。
二発かすったか。
危ないぞまじ。
遠距離攻撃を潰さないと危険極まりないな。
数が多すぎる以上、生半可な攻撃じゃ無理だ。
力を溜めるような時間を捻り出すのも難しいし。
さて、どうしたものか?
村は覆ってあるし、いっその事特攻するか?
迷っている場合じゃないか。
前から特攻してくる一団を斬り捨て、一旦俺は距離を取った。
≪黒鬼型式壱速度喰(ブラックオーガタイプワンスピードイーター)≫
事前にインプットしてある術式のひとつ。
魔力と妖力を混ぜ合わせ、特定の戦闘形態へと変化させる。
その一つ、防御力を捨てた圧倒的加速による戦闘モード。
膝から足先を覆う黒い粒子。
後ろ側に張り出した形になる。
その中には四枚の尾翼が存在。
魔力を莫大な噴射力に変えたエネルギーが、そこから放出され始めた。
腰の後ろ辺りから、後方に伸びた二枚の羽。
そこからも同様に噴射されるエネルギー。
この二枚の羽は方向の制御や転換も行なう。
そして肘から先、指の先まで覆った手甲。
手甲から、更に張り出した部分。
ここからも、噴射力に変えたエネルギーを吐き出すことが出来る。
移動の為ではなく、攻撃に更なる加速を加える為だ。
俺の目の部分を覆い、ゴーグル状に展開されていく。
目の保護も兼ねている。
そうして今まで以上の速度で戦闘を続行してく。
圧倒的速度で再び攻め始めた俺に、反応出来る奴は誰もいない。
まさに蹂躙という形で、放たれる矢も魔法も、俺を捕捉出来ない。
明後日の方向へ飛んでいく。
梓から繰り出す斬撃は、鎧諸共斬り裂き、盾をも両断していく。
俺一人が二百人強の軍勢を圧倒していく戦い。
オーガみたいな奴が振り回した大槌。
俺を捕らえる事もなく、味方であるはずの醜小鬼(アグリゴブリン)を巻き込んでいく。
こうして敵側は、誰一人俺を捕捉する事も出来ない。
一方的に蹂躙していくように、戦いは進んでいった。
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私とリリラは村の中央の広場で、皆と一緒にただひたすら待っていた。
突然村を覆った黒い膜みたいなの。
アキトさんが私達を守る為に張ったんだと思う。
彼がとても強いってのはわかっている。
それでも、一人で二百人以上を相手にするなんて無茶すぎる。
出来る事なら手助けをしたい。
魔術の手解きを受けていたので、使えるには使える。
でも、足手まといにしかならないと思う。
でもいつかアキトさんが困った時に、手助け出来るようになりたい。
まだ知り合って間もないけど、何故かそんな事を思っている。
この気持ちが何なのかはよくわからないけど。
どれぐらい私はそこで祈っていたんだろうか?
歩いてくる人が一人。
血まみれの体で歩いて来る。
本来は黒髪のはずだけど、血にまみれてるからわかりにくい。
額には黒い角状の粒子みたいのが渦巻いている。
黒い瞳で私を真直ぐ見ているのもわかった。
少し疲れているようだけども、にっこりと微笑んでいる。
その姿はどうしても黒き鬼を連想させた。
リリラや他の皆は少し複雑な表情をしている。
でも私は、アキトさんの黒き鬼を連想させる、その姿を見ても恐怖は感じなかった。
むしろちゃんと戻ってきてくれた事に対する安堵の気持ちだ。
私は思わず走り出して叫んでいた。
「アキトさーん!!」
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実際殲滅するのに、どの程度時間を要したのかはわからない。
しかし彼らには恐怖心というものはないのだろうか?
不思議と逃げ出す者はいなかった。
結局、この軍の司令官が誰かもわからないまま倒してしまったようだ。
辺り一面に広がる屍。
その数は二百を超えている。
まさに死屍累々な光景だ。
全滅させたのかどうかはわからない。
だけど、既に俺に向って来る者はいなかった。
≪型式解除(ディサーム)≫
インプットした術式にも欠点がある。
一度発動させると、解除するまでは固定化されたままなのだ。
その為、即座に切り替えるような事は出来ない。
並行発動も不可能ではないだろうけど、負担が凄まじいと聞いた。
「ふぅ」
梓を一振りした後に、突き刺したままの鞘の所に戻った。
鞘を大地から抜き、梓を納刀。
ゆっくりと村の方へ、俺は歩き出した。
「そう言えば、この死体どうにかした方いいんだろうか? とりあえずテテチさんに聞いてみるか」
若干気怠い体で、俺は村に戻る。
村の広場っぽい所には包帯塗れのテテチさん。
リラ、リリラさん達が待っていた。
皆、安堵の表情だ。
しかし中には、複雑な表情を浮かべている人もいる。
なんか黒き鬼って恐れられてるみたいだからだろう。
「アキトさーん!!」
そのまま飛び掛ってきそうな勢いで走ってくるリラ。
血まみれの体なのを思い出した俺。
「アーユーストップ! リラ、止まりなさい。リラさん!」
俺の言葉を理解してくれたリラは、俺の目の前で停止する。
でもなんで、そんな悲しそうな顔してるんですか?
まるで俺が悪い事してるみたいじゃないですか?
「リラ、俺は今泥まみれの血まみれで凄い状態なんだぞ」
「え? ん? あ? う? うん?」
リラさん、何その不思議な反応?
どう解釈していいのかよくわからないですけど?
「お帰り!!」
うん、理解してもらえなかったようだ。
リラさん、俺の首にしがみついてとても嬉しそうですよ。
「アキトさん、どうなったんですか?」
自分達は足手まといと進言した男。
彼に肩を駆りつつ近寄ってきたテテチさん。
やっぱり怪我は相当酷かったようだ。
包帯塗れだよ。
「たぶん、全滅させました」
抱きついたリラはそのままに俺は答えた。
「ぜ? 全滅させ??? 相手は二百以上だったんですよね?」
「そうですね」
「これが黒き鬼か・・・」
独り言のようですけど、しっかり聞こえてますよテテチさん。
「はっ? 申し訳ありません。まずは汚れを綺麗にしたほうがいいですね。リリラ、案内してあげて。ついでにリラの汚れも洗ってきなさい」
「はい。アキトさんこちらへ」
リリラさんて案外礼儀正しいのかな?
「はーい」
相変わらず首にしがみついているリラ。
その姿を、何故か微笑ましげに見ているリリラさん。
彼女に案内された場所は、屋根付きの露天風呂みたいな場所。
俺を案内した後、リラを俺の首から引き離して何処かに連れて行った。
まさかこんな場所で風呂っぽいので入浴出来るとは思わなかったな。
まぁ、残念ながらお湯ではないけど。
それでも、正直有難い。
黒の上下のパジャマとトランクスを脱いだ俺。
体についた血を洗い流す為、水の中に入った。
さすがに傷口にちょっと染みる。
風呂に入るみたいに腰まで浸かる。
そして、先に渡された布製の手拭いみたいなので血を洗い流していく。
リリラさんが大きめのタオルと、着替えを持って現れた。
「サイズが合うかわかりませんが、洗い終わりましたらこちらに着替えてください。この黒い服は洗いますがよろしいでしょうか?」
「あ、はい。ありがとう。お願いします」
「それではお預かりしますね。テテチさんが後程、詳しくお話しをお伺いしたいとの事です」
「わかりました。でも左のは俺の服だとして、右の小さめのは何ですか?」
「ふふ。それは秘密です。すぐわかると思いますよ」
そう言うと、リリラさんは妖しい微笑みを浮かべながら退散していった。
普通に考えれば誰かが入ってくるって事なんだろうけど?
誰が入ってくるんだ?
汚れ落とす必要があるのはリラだけどまさかね?
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