第2話 ログアウト不能から始まる物語

 ログアウトできない!?まてまて、そんな小説みたいな話があってたまるか。それに人間ならまだしもオークとか何の罰ゲームだよ!?


『ご主人?どうされた』

『ちょ、ちょっと待ってくれ。頭を整理する』


 頭の中でステータスと唱える。すると俺にしか見えないウインドウのようなものが浮かび上がる。


名前:タクト

種族:ウルクハイ

クラス:なし

 Pスキル

豪腕 筋力に上昇補正。

生存本能 死に瀕すると全能力が上昇する。生殖能力も高まる。

自己再生 肉体の回復が早くなる。また、筋力の上昇にも影響する。

指揮 パーティーリーダー時に仲間に能力上昇補正がかかる。

☆超鑑定 あらゆる物を鑑定することが出来る。それは自らの知識にない物も可能。

☆全言語理解 全ての言語を使うことが出来る。文字も自然と書くことが可能。

☆学習能力 スキル習得確率が上昇する。戦闘中にひらめく確率が上昇する。


 HPとかMPとかの欄がない。ついでにやっぱりログアウトの欄はない。おいおい、うそだろ!?それにスキルに星とかついてるけど何だこれ。

 それよりもまずは子供がどうのって言ってたやつだ。



『ご主人、あそこだ』


 ウェルにつれられていった集落の広場のような場所の中心には、女子供が集められていた。恐怖に泣き叫ぶ子供や、その母親だろうか。抱きしめて守ろうとする女。それを取り囲み、楽しそうに笑っているオークたち。

 ……信じられない、と思うのはきっと俺が人間だからだろう。オークにとっては食べ物のようなものなんだ。


『おや、女もいるようだ。これで集落の仲間も増やせますな』


 このゲームどれだけリアルなんだよ!?……いや、今はゲームかどうかはおいておこう。それよりもここをどうするかだ。男が一人もいないのが気になるが……。


『さぁ、皆の者食事の時間だ!!』


 俺よりも巨大な身体を持つオークが吠える。2mちょっとくらいはあるだろうか。立派な鎧兜をつけている。スキルに超鑑定ってあったな。意識して使ってみることにした。


オークジェネラル

ランク:C

 高い戦闘能力と巨大な肉体を持つオーク族の将軍。集落の統率者が進化することでなることがある。


 ということは、あいつが第1位のガントとかいうやつか。そのガントが腕を伸ばし、一人の女の身体をつかむ。その子供だろうか、長い金髪の少女が腰元に潜ませていたのだろう、ナイフを出すとガントに切りかかる。


「や、やめなさい、アンナ!!」


 女の叫ぶような声を無視してアンナと呼ばれた少女はガントの身体を切りつける。……だが、少女の力ではその肌に薄く線を引く程度しか出来ない。

 ガントが面倒そうに軽く腕をふるい、アンナを吹き飛ばす。アンナは俺のほうへと飛んできて咄嗟に受け止める。


『邪魔だ。……好きにしろ』


 俺を軽く一瞥した後、ほかのオークへとそう指示を出す。小さなオークたちが少女に飛びかかろうとこちらへと駆け寄ってくる。

 そのとき、俺の気のせいだろうか。アンナと呼ばれた少女と視線が重なる。絶望でも、希望でもない、まるで俺の内面まで見通すような真っ青な瞳。

 一人のオークがアンナの腕をつかもうとした瞬間。


「……え?」


 そのオークが吹き飛んでいた。ほかのオークも、隣にいたウェルも固まっている。……やってしまった俺も。


『何のつもりだ、タクト。貴様まさか俺に逆らおうというのか?』


 ガントが今にも食べようとしていた女を投げ捨てると俺のほうへと歩いてくる。


『う、でも何も食べてしまわなくても……』

『人なぞ家畜だ。我らの子をなして集落を繁栄させる道具に過ぎん。貴様にもそれくらい分かっているだろう!それでも逆らおうというのならば……』


 ガントは背中に背負っていた巨大な斧を手に取ると大きく振りかざす。


『貴様は今ここで死ねぃ!!』


 斧が振り下ろされ、爆音が鳴り響く。


『あぶねぇ……!』


 何とかアンナを抱えて避けることに成功した俺は近くに武器になる物がないか確認する。


『タクト様!』


 ウェルの声が聞こえ、一振りの剣が投げ渡される。それを受け取り抜き放つ。ちょうどガントが再び接近し振り下ろした斧をその剣で受け止める。


『ぬぅ!?貴様、いつの間にそれほどの力を!』

「ちぃっ!アンナとかいったか!早くそこから離れろ!!」

「っ!!は、はいっ!!」


 しまった、オークの言葉とか分からない……ってあれ?今返事した?


『よそ見している余裕はないぞ!!』


 ガントが斧を再び振りかざす。ガントの身体からオーラのような物がほとばしる。あれは……攻撃スキル!?


『くらえっ!!』


 先ほどまでの一撃よりも明らかに威力もスピードも乗ったその攻撃を俺は紙一重で見切って避ける。その際に少し身体に当たって血が流れるが気にしない。

 抜き放ったままの剣をガントの顔面めがけて突き出す。


『ぐああっ!!』


 直撃はしなかったが片目は潰した。勢いで兜も吹き飛ばしたからこれで攻撃を出来る場所が増えたな。


<スキル:見切りを獲得しました。 スキル:剣術を獲得しました。>


 頭の中でアナウンスが流れると同時に剣を持ち直す。先ほどまでよりも更に斧の動きが遅く見えるのは見切りの影響、剣がまるで腕のように自然に振るえるのは剣術の効果か。


『タクトォォォ!!!』


 再度スキルを放とうとしているのか、大上段にまた構えるがもう遅い。


<攻撃スキル:斬鉄剣を獲得しました。>


 自然と身体が動く。ガントと逆に身体を低く屈め、地面を蹴る。


『……グフッ』


 ズシン、と地面を震わせガントの身体が上下にわかれる。同時に剣がパキンと音を立てて砕け散った。


「何とか……勝てたか」

『ご、ご主人。まさかガントを倒してしまうとは……』


 ウェルの声が震えている。やっぱり不味かったんだろうか。襲い掛かられたから結果として倒してしまったが。


『素晴らしい!!これでご主人がこの集落の長だ!!』


<おめでとうございます。貴方のクラスがジェネラル(剣)に進化します。レベルアップに伴い、新たなスキルを獲得します。>


名前:タクト

種族:ウルクハイ

クラス:ジェネラル(剣)

 Pスキル(追加)

☆将軍の号令 軍勢を率いる際に全体の能力が上昇する。更に伝達力が大幅に上がる。

☆血の覚醒 種族としての格があがることで人に進化することが出来る。ただし、種族は変更されない。


 どういうことだ?と俺が首をかしげていると周囲のオークたちがざわめき立っている。襲い掛かられるかと思って身構えたら全員がひれ伏している。


『ご主人、もうこの集落で逆らうものはおりませぬ。あの女子供もご主人の好きになさっていいのですぞ』


 そういわれてアンナたちを見る。何が起こっているのかわからず全員が固まったままだ。


 ……さて、どうしたものか。

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