進撃のタクト
玄猫
第1話 種族って人間じゃないんですか?
世の中には沢山のゲームが存在している。オフゲもオンゲもあわせれば本当に星の数ほどあるだろう。そんな中でひとつのゲームを選び、実際に遊び色々な人との出会いが生まれる。運命なんて格好をつけた言葉はどうかと思うが、きっとそれが運命なんだろう。
俺、
……まぁ、俺の場合……いや、俺だけでなくこの事件に巻き込まれたユーザーはすべからくそうなんだろうけど。
VRのゲームはご存知だろうか。ヘッドセットのようなもので視界の全てがゲーム世界になるタイプのもので、最近では特殊な脳波を拾うことでまるで自分の意志で動けるような世界になっている。
オンラインゲームの多くが現在ではこのVRタイプになっている。その中でもフェアリーテイルオンラインはまだまだ新しいものではあるんだが、ユーザー評価が異常に高い。
「完成度が高い」「まるでリアルな世界のようだ」「てか飯うまいよな」などなど。……最後のひとつは正直意味が分からないが。
さて、また俺の話に戻るが自分で言うのもなんだがVRのゲームに関しては日本でも有数の実力者だと自負している。VR初期時代ではあるが、その頃のオンラインゲームでPvP大会の優勝もしていたりする。ちょっとした自慢だったりするけど、自慢する相手はいない。
「へぇ、凄いなこのゲーム。どれだけ選べる種族あるんだよ」
人族、エルフ族、ドワーフ族、小人族……魔族や獣人族、そして選択肢の中にオークとかそういった魔物みたいなものもある。
「オークとか……同人誌かよ」
しかも色々と調整できる要素がある。身長やら体格やら……一応顔も変えられるのかよ。オークの顔とか変えても全然違いが分からないんだが。
色々と設定をいじってどんな感じか見ていたときだった。モニターの画面が一瞬ぶれたように見えた。
「ん?」
……もう一度見てみるが、特に変わった様子はない。気のせいか?と思った次の瞬間目の前が突然真っ暗になる。
「な、何だ!?」
そう声に出ていたかどうか、そのときの俺には既にわからなかった。
俺が目を開けると、見知らぬ天井が目に入った。……というか藁葺き??
「ゴオ……」
ここは?と呟こうとした俺の口から出たのは聞いたこともない枯れた声……というか鳴き声?
「ゴア?」
手をかざす。緑色の肌。ゴツゴツとした指。……背筋がぞっとする。ペタペタと顔を触るが、感触も違うし舌で歯をなぞると間違いなく尖っている。これは歯ではなく牙といった感じだろう。
起き上がってみると、身長的には180くらいあるだろうか。俺の記憶が確かなら設定には160程度だったはずなんだけど……バグか?
『おぉ、ご主人。起きられましたか』
一人……でいいんだろうか。オークが家に入ってくる。サイズでいうと150程度。顔には斜めに大きく切り傷のような痕がついている。
『ご主人……えっと、お前は……』
『おや、まだ寝ぼけられているのですかな?私はウェルです。貴方は私の主でこの集落の第2位、ウルクハイのタクト様です』
名前は……俺の下の名前のままか。それにしてもウルクハイって何だ?オークの品種的なものか?
『それはそうと、ご主人。第1位のガンド殿が今日は近くの村から子供を攫ってきたようですよ』
……そうか。人が家畜を食べるようにオークは人を……食べるのか。
『どうされたのです?』
だが、俺はゲームとはいえ人を食べるなんてことはごめんだ。まずはログアウトして……。
……どうやって、ログアウトするんだ。
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