候補生の夢は続く
目を開けるといつもの朝陽はなく、その代わりに暗闇とジャリッと砂を踏んだような音だった。まだ夜?痛っ!何か踏んだよ!あ、そっかスリッパだったか。
目が暗闇に慣れると灯りが見えた。ゆらゆらと揺れている。キャンプファイヤーでもやってんの?しかし夜で間違いなさそうだ。
その小さな火に目を凝らしてみると何か聞こえる。
「・・・」
まだ聞こえない。
そう思って一歩踏み出すと爪先の部分に踏んだ感覚が無い。崖?試しに足を少しズラしてみるとズラした分だけ空中を踏んでいた。崖で正解のようだ。
「危ない危ない」
俺は後ろに下がり膝と手を付き、もう一度小さな火へ視線を送ると今度は遠くから少しは聞き取れるほどの声が聴こえてきた。
―ブタが!早くせんかぁ!!―
お、おう。罵倒してらっしゃる・・・。
家畜でもいんのかなと思いながら下を覗こうとしてみると崩れた。崖の端が。
テンプレすぎぃ!
「が!痛!ぐっ!!」
うわぁ!も言えずに転がるように俺の体は重力に逆らわず地面に打ち付けられる。服はところどころ破けているようだ。
「イタタ・・・」
こんな展開ありかよ。えーと、なんだっけ?
金髪巨乳の女神様に連れられて異世界へ。
それなんてエロゲ?
『早くしろと言っとるだろうがぁ!!』
『叩き潰せぇ!』
「うおっ!?」
ビックリしたー。もう一人いるのか。
転がり落ちたおかげかさっきよりもちゃんと聞き取れる。声がした方へ顔を向けるとそこには罵倒する男と鎧のようなものを着込んだ女たちだった。俺、頭打ってないよな?
ここで回想は終わる。
指揮官と思われる太った男一人、その男を後ろに十人ほどの女たち。それが二つ相対するように向き合っていた。
戦闘を無理矢理に開始させ、戦っている女の子に罵声を浴びせてはニタニタと汚らしく笑っている。そんな下衆な男に腹が立ち、自然と俺は立ち上がり震えた声を洩らしていた。
「これはダメだろ・・・」
それでも火の球や氷の
「ははっ。本当にこんなことがあるのかよ」
本当に笑いしか出てこない。なんで傷つけ合いをしなきゃならないんだ。こんなのおかしいだろ。
憤りを覚えたその時、光が後ろからさしているのがわかった。振り向いてみるとそこにはあの女神。
女神は下の光景を一瞬悲しそうに目を細めるも俺に顔を向け真剣な表情で言葉を投げた。
「あなたはあの様子を見てどうしますか?」
どうしますか?
だって?止めたいに決まっている。でも手段がない。
「そのままでいますか?」
助けたい。それが迷惑でも。男達はぶっ倒して警察でも牢屋にでも入れればいい。
「なぁ、あんた神様なんだろ?」
自然と言葉は荒くなる。
目の前の存在は首を縦にも横にも降らない。
ただ、見つめてくるだけだ。
「助けてあげてくれってのはだめなのか?」
頷きその旨を伝えてくる。口で言えよ。
「じゃあ、何かないの?剣とか。ほらなんかファンタジーっぽいじゃん、アレ」
俺はアレ――大きな得物で叩いたり、炎や氷を飛ばして戦う光景――を指でさす。
確かにエロゲーでもファンタジーな世界を舞台にしたものもある。触手とかあるけど俺は苦手だな。それで友情とか芽生えて一緒に魔王なんかと戦って勝ったら全員もれなく主人公とイチャイチャして終わるハーレムエンドというものもある。
でも・・・、でもアレは違う。絶対にエロゲの主人公はあんな太ったオッサン達じゃない。しかも傷ついているのを見てニヤニヤと汚い笑いを滲ませるような
だから・・・。
「戦うための武器をくれ」
俺が力強く言うと女神は手を横に振る。
すると一瞬だけ眩い光が視界を覆ったかと思うと暗闇。目が慣れるとそれまでの光景が広がっていた。
「な、なにをしたんだ!?」
失礼な物言いだったから怒ったのか!?
俺は震える声できくが女神は隣を指さす。
そこには・・・、なんで竹刀なの!え?ここはあの女の子達が持ってるような西洋剣ぽいのでしょ?なんで竹刀?とにかく持ってみるがやはり竹刀。当たり前だよね。テヘペロ!
「これ俺のじゃん!!」
別に名前とか書いているわけじゃない。でも感触や重さなどでわかる。別に真剣に部活をしていた訳でもギュッと力強く握っていた訳でもない。それでもこれは俺の竹刀だ。
「これで戦えって言うの!?」
コクリと頷かれ俺は声を上げる。泣き声を。
「このダメ神がぁぁぁぁぁ!!」
もう失礼とか知ったことではない。
でもドジな神様っていいよね!思わず助けたくなるぜ!そう言いたいところだがそうもいかない。
「これわざとだろ!!」
この神様は意図して竹刀を俺に持たせたのだ。イジワルはいけないなと思いました!
「なんで竹刀なんだよぉぉぉ!!」
泣き言を洩らすがニッコリ笑うだけ。あ、可愛い・・・じゃない!あんた悪魔だ!
「お前は何者じゃあ!!」
「うお!?」
ビックリしたー。ギャーギャー言っていたおかげか向こうからお呼びがかかった。え?お前?俺一人だけ?横のダメな神様見えてないの?色々疑問はあるがとりあえず言っておくか。何もするなよ意地悪女神様。
「うるせー!変態オヤジが!気持ち悪いんだよ!!」
言っておかないと気がすまない。言ったからと言ってすむかと問われるとそうでもないけど。
「女の子たちを虐めて楽しいか!!」
これは絶対に言いたかった。アレはどうみてもSMプレイとかじゃない。
少しの間唖然と口を開けたまま固まっていたが次の言葉でその顔は怒気によって歪められる。
「自分は後ろで高みの見物か!いいご身分だなこのっ・・・弱虫が!!」
・・・。一瞬の沈黙。
「ふざけるなクソガキが!!ここは男が上に立つ!そういう世界だ!
「お前達、戦闘は中止だ。まず小うるさい弱者の言い分を振り回した偽善者からだ」
「はっ!言ったそばから人に頼るのかよ。その腐った根性叩いてやろうか!?」
たぶんヤンキーみたいな口調なってるな。
でも仕方ないじゃないか。怒らずにはいられないし、なんかムカつくもん。
「安い挑発には乗らん!お前らさっさとヤれ!!」「何をもたもたと・・・。殺されたいのか・・・!!」
それでもまだ女の子達(大きい女の子もいるよ!)は渋っているようだ。その間に俺は横にいるが他の奴らには見えない女神様に話しかける。
「なあ、コレで戦えるのか?」
竹刀を片手に聞いてみる。
『それはあなた次第です』
よく通る声で答えになっていない答えを出す。やっぱり意地悪だ。俺はMじゃない。
「一つ確認するけど・・・」
これだけは一応確認したい。
「あのオッサン達ぶん殴ってもいい?」
吐くように言うと目の前のダメ女神は驚いたような顔をしたかと思えば疑問符を頭の上につけながら首を傾げた。女神の表情筋やべぇな。どれくらいヤバいかって俺の理性はち切れそうなぐらいにヤバい。
「ソレではないのですか?」
俺の片手に握られている竹刀を指でさしながら問う。
「コレは・・・竹刀は生身の人間を叩く為のものじゃない。人を殴るなら理由があったとしても竹刀とかじゃなく自分も傷つく己の拳で殴れ、ってある人に言われたんだ」
そういう理由があって竹刀は使えないし使いたくない。
うーん、攻撃してこないうちに今ぶん殴ろうかな。よし!行くか!
「竹刀はありがとう。でも殴るだけだから」
それじゃあ、と言って行こうとするが待ちなさいという一言で反射的に立ち止まった。
「え、なに?」
俺はその場で足踏みをしながら振り向くと女神は竹刀を消し去った。
「えー!!俺の竹刀がぁぁあ!!」
絶叫が木霊する。ウソ・・・俺の、俺の相棒が。
嘘だと言ってくれ。
・・・この文いらねぇな。
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