第12話 転・4

「いったろ、ここは神仙境。生きた人間がめったに入り口にも立てる場所じゃない、ってさ」


「じゃ……! 僕は死んでいるからここにいるってこと?」


「まあ、半分だけね」


やっぱり意味のわからないことを下上御前が繰り返す。


「夢と現実が半分半分って……半分僕は死んでいて、もう半分の夢では生きているってこと」


「そういう感じだね」


「なら誰が僕の夢を見てるの? 僕は死んだんだろ? いつかは知らないけど」


「私」


下上御前が両手で自らを指した。


「いつの間に?」


「お前さんが桃色のタバコを吸ってハイになっちゃって、河へ飛び込んだ時に君が死んだんだ。まだまだ真夜中は冷えるからねえ。当然、助けるひとどころか見ていたひとすら誰もいなかったろう」


「じゃあ、僕の身体は今も水の中?」


「常識的に考えれば。もしかしたら誰かによって水から引き上げられたかもね」


「ああ、もう、変なはずだよ。ずっとこれらが夢だなんて……!」


「いったろ。魂が肉体から、コ・ロ・バ・セって」


「そんな意味が……」


「ちなみに暗喩で、性的に達してしまった、という意もあるのでな。まさにセクハラものじゃろ? しかも下上御前に対して使ったのだ。牢屋行も当然じゃ」


頭の中がぐわんぐわんしていた。


僕は牢屋の中で死にかけていた。ところが現実ではとっくに僕は死んでいた。しかもこの少女、下上御前の夢の中の存在としてだけ半分生きているという。


「ねえ、君が目覚めたら僕はどうなるの?」


恐る恐る下上御前にたずねる。


「夢は朝露と共に消えるな」


そんな気軽にいわれても。


「だが私にいい考えがある」


「いい考え?」


「お前、神にならんか?」


「なれるの? そんな簡単に?」


「楽勝だから。ほらこの仙丹を呑めばたちまち昇神して、転生することが可能だ」


「そうなんですか。ずいぶんと……虫のいい話に聞こえますが……」


僕が下上御前の目を見つめると、ふいっと顔をそむけた。


絶対、ヤバい。


さて、僕はこれを呑むべきか、呑まないべきなのか?

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