第10話 転・2

なんて寒さなんだろう。


僕は宙に運ばれているのを感じていた。鳥かごのような牢屋の上部をなにかが掴み、巨大な翼が羽ばたいているのを、全身の肌が粟立つ感覚で知った。


ただでさえ強い風速がさらに加速され、僕にわずかに残されたかすかな体温すらをも剥ぎ取っていく。


もう、体温の方が気温より低いんじゃなかろうか。


朦朧としだした頭で思った。


あ、知ってる。昔、テレビのコントで見たやつだ。


寝たら死ぬぞ、ってヤツだ。


うん、これは眠い。しかもなんだか気持ち良くなっていく。なんでも脳が苦痛から逃れるために、脳内麻薬を放出するとかなんとか本で読んだ気がする。


ふふふふふふ。


これは悪くない死に方だ。いや、最上の部類に入るかも知れない。


人生からなにもかもをも奪われた愚かな中学三年生が迎えるには上等過ぎる。


きっとこの先、生きてても嫌でツラいことしかないのは、どんなアホでも目に見えるほどわかるし、それを体験せずに死ねれば最高じゃない?


逆転満塁ホームランものだ。


神様、グッジョブ!


こんなになっても、僕のまぶたは抵抗して開こうとしている。生存本能的なものだろうか。ま、どうせすぐに落ちる。


ごつごつした牢の格子にもたれて、このまま眠るように死ぬ。


この先の人生の嫌なこと全部を体験せずにすむように。


さあ、眠ろか……。


ごんっっ!!!


したたかに後頭部を強打した。目から火が飛ぶ。


僕を見下ろすのは、タバコをくわえた少女、下上御前だったか?


「一本いかがかな? コロバセ?」


「ども……そんじゃ」


僕は寝ころんだ姿勢のまま手を伸ばした。


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