第9話 転・1

自分の人生が結構不幸な方なんじゃないか、と思っていたんだけれども、まだまだだったね。


まさか犯罪者として牢屋に閉じ込められるというところまでくるなんて。


これで立派な前科持ち。いや、立派はないか。


というかさすがにこれには驚いた。


驚きすぎて疲れてしまった。


僕としては愛用しているタバコも取り上げられて鳥かごのような形の木製の格子の中でぐったりと座り込むしかない。


こういう時こそタバコを吸いたいのだが、僕は犯罪者として身ぐるみ剥がされ、下着以外は与えられた和服(?)くらいしかなかった。


寒い。腹が減った。そして寂しい。


以上の三つは人生において揃えたらアカン三点セットだ。これがそろえばどんな元気なひとでも、自殺寸前にまで追い込まれるという、深刻この上ないトリオ。


昔のなんかのマンガで書いてあった。


ほら、実際に僕は涙が出てきそうになった。さびしさが胸の奥でごろりとのしかかってきたようだった。


その重さに対抗しようにも身体が冷えて体力もなく、空腹で持ちこたえようもない。


ああ、このみっつがダメな理由がよくわかる。


牢屋の中でなかったら、もし自分の家だったら自殺くらいしててもおかしくないし、皮肉なことに、今夜、此彼橋の上で異変に巻き込まれなかったら、同じようになっていて首吊りでもリスカでもしていたかもしれない。今日日ネットのおかげで自殺の方法なんていくらでも無料で知ることができる。


助けを得る方法なんて、ほんの少しなのにな。


さすがに自分で自分の首を絞めて死ねるほど間抜けではないし、舌を噛み切れるほどの度胸もない。


さすが僕、中途半端だ。


それにしても寒い。


普通の衣服を着ている時は感じなかったが、この薄っぺらな衣類では風の冷たさにまるで対抗できない。春が近いどころかまだまだ冬だ。


寒い。本当に寒い。こう寒いと体表からだけでなく、身体の中からも熱を奪われていくような気がする。呼吸のせいだろうか。


それに空腹でなければここまで寒さに弱くはなかっただろう。


ハラペコというより、ガス欠というか、動くためのエネルギーが足りていないという感じ。腹の部分が抜け落ちたような感覚で、ヤバいというしかない。


まさか僕をこんな真っ暗な場所で放置して殺そうとはしないだろうな?


そんな想像にゾッとした。


その想像の怖さに声を出して確認することすらできなかった。


誰からも返事がなかったら……!


あの鬼のような連中ですら恋しい。


助けて……助けて……!


そんな時、


ひゅー、ひゅー、と音が降ってきた。


初めは小さくやがて僕の身体を寒さで震わすほどの強風が降り落ちてきた。


「な、なに?」


寒さですっかり無気力となり果てた僕は身を丸めると異変が過ぎ去るのを待った。


が、過ぎ去るどころか、牢屋全体が激しく揺さぶられ出した。


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