第8話 承・4

「まさか夢オチってことはないよな?」



なんとか橋の上にまで連れられ、固い地面に降りた僕は、愚痴るようにいった。



「ああ、それはあながち間違っているとはいえないよ」



「え?」



少女の言葉に僕は自分の頬を自分でつねってみた。古典的な上、効果があるかどうかも疑わしいが、他の相応しい手段が思い浮かばなかったから。



「いやいや、そういうことでなく」



くくくく、と笑いながら平安少女は僕に教えてくれた。



「神仙境っていうのは現世うつしよ夢世うつつよ狭界はざかいにある世界なのさ。半分現実で半分夢ということだね」



「あ、夢なんだ」



「違う違う。半分だけ夢なの」



「あ、そうなんだ」



全然違いがわからない。



「で、ここで僕はなにができるの?」



半分あきらめモードで僕はタバコをくわえ、火をつけた。



「火を借りるよ」



ドキッとするような近さで相手の子が袖から出した自分のタバコをくわえ、同じ火を分け合った。煙の匂いから同じ銘柄とわかった。



「君、いくつ?」



純然たる興味で僕は質問した。



「んー……草木そうもく1000年ってところかな?」



「え? マジで?!」



「あはは、そんな馬鹿な。君と同じくらいさ。コロバセ!」



「だから、そのコロバセってなんの意味があるの?」



「コロバセに意味なんてないよ。コロバセはコロバセ。当たり前じゃないか」



「ちぇっ、そんなら君もコロバセってことでいいのかい?」



「うわ……女性にコロバセって……信じられない。セクハラどころか刃傷沙汰だよ」



「え? 冗談でしょ?」



「冗談ではすまさん」



気がつくと、周囲に室町時代の武士のような恰好をした男が6人も宙に浮き、僕を包囲していた。みな刀を抜き、尋常でない雰囲気を漂わせている。



「へ? え、これ、冗談でしょ?」



「ごめん。私個人としては許してあげたいんだけど……」



少女が気まずそうに肩をすくめる。



彼女の後ろからそれに代わって前で出てくるひときわ厳めしい顔の武士が雷鳴のような声で僕の罪状を言い渡した。



「その方、下上御前しもかみごぜん御名前おんなまえを穢したる罪、許すまじき! 奉行にて裁きあるまで、どこへなりとも逃がさぬ。左様心得よ!」



ま・じ?



僕は空飛ぶ中年男たちに捕らえられてしまった!

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