第6話 承・2



気がつくと僕は水面を突き破り、宙へと飛び上がっていた。



ふと見上げると、赤い月に雲がかかっている。



「困るなあ、コロバセ者みたいなことをやられちゃあ」



目の前に僕のタバコをくわえたヤツ、僕に似ているヤツがいた。



「あー……酔ってたみたいなもんだと思ってくれ」



「だからコロバセだというんだよ」



そのコロバセというのがどういう意味か知らないが。褒めていないことはわかる。



「ほら、見て」



いわれるままに水面を見ると、橋や周囲の風景はちゃんと映っているにも関わらず、僕と目の前のコイツの姿は映っていなかった。



ついでにいうなら水に飛び込んだのに、まるで身体が濡れていない。



いったいどういうことだ。



「しょうがないなあ」



目の前の僕はため息をついたが、どこか面白がっている様子もあった」



そういえば僕らはどこにいるんだ?



落ち着いて見回すと、僕らはふわふわ浮いていた。しかも雲に乗ってだ。



孫悟空か。



「とりあえずここがどこか教えてあげよう」



「はあ」



「人間には普通なら入り口にすら立てない場所、神仙境しんせんきょうだよ」



「ほう……って、なにそれ?」



「んもう、無知浅学の輩だなあ。まあ子供だから仕方ないのかもしれないが」



そういうと人差し指と中指を合わせて、もうひとりの僕は自分の口の前で素早く振った。



そうして、やっと相手の本当の姿と出会うことになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る