第14話 変わりゆく日常
須佐ノ男が社を訪れてから、早一ヶ月が経とうとしていた。
宇雅は相変わらず、毎日境内へ足を運んでは娘を待っていた。だが、彼女が現れることはなかった。日に日に暗い表情になっていく自分たちの主の姿を見て、彼らはセイを責めたのだった。
「おい、セイ。お前のせいだぞ。どうするんだ」
「私はただ、主をお守りしたく、」
「あの娘に邪心がないのは明らかだった」
そうだそうだ、と白狐たちは口を揃えて言う。
彼らもなんだかんだ言って、娘に興味を持っていたのは違いなかった。だから事の発端であるセイに、なんとかさせようと彼らなりに解決策を探していたところだった。
「また人に化けて行くしかあるまいよ。まずは娘に来てもらう他ないのだから」
「ではどうする? 妻帯者の、しかも子持ちの男に会いに来るだろうか?」
「だから誤解を解くために……」
あれやこれやと話していると、そこへ子狐メイがひょこっと顔を覗かせた。
「ねぇみんな。なに話してるの?」
「ああ? お前は主様のそばにいろ。遊んでさし上げるのだ」
主のそばに置いておいたはずのメイがそこへ現れた為、驚いた一同であったが、今は大事な会議中だとでも言わんばかりに、メイを部屋へ戻そうとする。
「だってぇ~めい、めい、ってうるさいんだもん~」
「それがお前の名前だろう」
「違うよお~。僕じゃなくて、あの娘もめいっていうんだよお~」
「…………」
それを聞いた彼らは互いに顔を見合わせ、話し合いがますますヒートアップしたのだった。
「何を騒いでいる?」
そこへちょうど通りかかったボンが、不思議そうに訊ねる。
「ボン様! ちょうどよかった。主様のあの状態、何とかせねばと思いまして」
「我々が思うに、用はあの娘をここへ来させればいいのですから」
「つきましてはこのセイに、娘の誤解を解くため、下界へ遣わすのはどうかと」
代わる代わるそう説明してくる彼らと、その後ろにいるセイ。彼はどうやら、下界にはあまり行きたくはないようだ。元々血色の悪いその顔が、今日は何倍にも増して青白い。
「うーん……下界へ行くのには賛成だが。セイだけでは不安だな」
てっきり反対するだろうと思っていたが、あっけなく許可が下りたことに彼らは驚いた。
問題は、誰がセイと共に行くか、だ。
如何せんこの社は他と違い、訪れる人の数が桁違いなのだ。よって彼らの仕事もそれなりの量であり、こうして仲間同士集まって話す事もなかなかないのだ。
「まあ、後は私が考えておく。今日のところはこれで終いにしよう」
そう言うと、ボンは彼らをそれぞれの持ち場へと帰させたのだった。
◆
宇雅の部屋にて~
「メイー? メイー! どこなのお~!!!」
僕のメイ~!と子どものように喚く宇雅を宥めるセイであったが、先程まで横にいたはずの子狐の姿がないことに気付いた。
てっきりこの主は芽衣のことを言っているのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
何やら嫌な予感がする、とセイはボンの元へ急いだ。
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