第6話 白狐たちと宴会
「皆、今月もよく働いてくれた。今月の主からの褒美の品は……」
今、社にいる全ての白狐たちを集めて、彼らの長であるボンは主からの褒美の品を彼らに与えんとしていた。
月末になるとこうして白狐たちが一同に集まり、仕える主から褒美をもらうことになっている。それは大体、人間たちが供えた酒や油揚げであったりするのだけれど、ごくたまに、宇雅が人間界から持ってきた物が出てきたりもする。
今回は何が出てくるだろうかと白狐たちはワクワクしていた。
人間界の食べ物、特にジャンクフードなどは霊体に良からぬ影響を及ぼすと考えられているため、なかなかお目にかかることはできない。彼らにとって、特に油っこい物、添加物が入ったものはタブーとされていた。
だが宇雅はあまり気にすることなく、ふらりと下界へ降りて物珍しいものを見つけては持ち帰ってくるので、彼らはそれを密かに楽しみにしていた。
「え~、今回の品は」
ゴクリと唾を飲みこんで、その言葉の続きを待つ白狐たち。
その中には新しく仲間に加わったセイ、そして子狐メイもいる。
「今回の品は、……! どーなつだ!!」
言った本人が一番驚いているのではないかと思われたが、その言葉を聞いた他の白狐たちは雄叫びにも似た歓声を上げた。
「うおおおおおおー!」
「どーなつだ! どーなつだ!」
「俺、ぽんっでりんぐるがいい!」
「私は豆乳どーなつがいいわ!」
「酒だ! 酒をもってこい!」
さあ、待ち望んだ褒美の品を前に、彼らは宴を始める。
皆好き好きに人に化けて酌をしたりされたり、そして何故か狸の姿で晩酌を楽しむ者もいる。
これがこの社の伝統でもあり、月に一度の、彼らの休息日でもあるのだ。
いつもは厳しい顔で仕事に取り組んでいる仲間たちの心底楽しそうな姿に、メイは唖然とした。そして隅の方で、遠慮がちに佇んでいるセイを見つけると、彼の元へ走った。
「ねぇ! セイ!」
そう名を呼ばれたセイは、はっとすると、その声の主を探す。
それが自分の仕える主のものでないとわかると、少し残念そうな顔になったが、こちらへ駆け寄ってくる子狐を視界に捉えると、その頬を緩ませる。だがすぐに元の仏頂面に戻ると、冷めた口調でこう言った。
「なんだ子狐、気安く呼ぶな」
冷たくあしらってやればどこかよそへ行くだろう、そう思ったセイであったがこの子狐には効かなかった。
「いっしょに、どーなつ食べる」
パクっとセイの尻尾を口にくわえると、ぐいぐいと引っ張っていく。
それはまるで猫がおもちゃを引っ張るかのようにも見えて、周りにいた白狐たちはケラケラと笑った。
「おーいいぞ小童、やれやれ」
「セイにお前の力、見せてやれ」
楽しそうにそう口々に言う彼らはもう、セイを自分たちの仲間として受け入れていた。
「ね~ふあやくぅ~」尻尾を口にくわえているため、もごもごと話すメイだったが、それでもセイは困った顔をするだけだった。
だがそれも無理はない。
同じ立場である神使に怪我を負わせた上に、彼らの主に手をあげたのだから。
――そう簡単に仲間入りするなど、
セイはいまだ戸惑っていた。
「ふひぃはまは、よんへふよ~?」
(ヌシサマが、よんでるよ~?)
だがその一言を聞くと、セイは突如姿を人に変え、メイをそのままに一目散に宇雅の元へ走っていった。
これまさに、風の如く。
((今のでよく理解できたな))
とそれぞれ心の中で突っ込む白狐たちであった。
◆
「ぬ、主様!」
現れた白狐神使、セイ。
これまさに、忍の如く。
「おや、セイ。楽しんでる~?」
ほどほどに酔いが回っている宇雅は、頬をほんのりと染めながらセイを見る。
その姿を見ると、セイの体のどこかからカチッと音が鳴った。
「?」
なんだ今の音は、と口にするより早くセイは動いた。
「わ、わたくしを……あなた様のしもべにしてください! いや、奴隷でもいい! むしろ犬! あなたの従順な、犬ぅ!!」
急に人格が変わったセイの姿に、唖然とする白狐一同。
それまでどんちゃん騒ぎだった社は、シン、と静まり返った。
キョトンとした宇雅であったが、未だ犬のように尻尾をふるその人間――ならぬ白狐、セイを見ると、愉快そうに笑った。
「よぉ~し! 君は僕の犬だ! それ、ためしに三回回って、わん!」
宇雅がそう言うとセイはその通りに、三回回り、わん!と鳴いた。
「……よほど主の事が好きらしい」
「嬉しいことだ。……ボン、君もあれくらい僕に従順でもいいよ?」
ニヤリと笑う宇雅に遠慮します、と呆れたようにボンは返した。
◆
「それにしても随分とイケメンなんだね、セイの人型は」
今のセイの姿は、黒髪にぱちりとした二重の目。髪は今風の若者がするようなそれだ。
「はっ……!? ふひあまいふおんはふぉふぉ~!!」
(はっ……!?ヌシサマにそんなことぉ~!!)
興奮で上手く話せなくなったセイの代わりに、メイが皆に通訳した。
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