第4話 かみさま、テレビが見たい2
「ねぇ~まだなの~?」
だるそうに歩く宇雅の前をボンはサクサクと進む。その後ろを、見習い子狐メイもとてとて、と続く。
今、彼らは猫の姿である。
テレビが見たいと言い出した宇雅の為、こうして猫の姿になって人間宅へ向かっている途中なのだ。
「もう~いつになったら着くのお~?」
「さっきから文句ばかり……アニメとやらが見れなくてもいいのですか?」
先程から、ぶつくさと文句ばかり垂れる自分の主に半ば苛立ちながらも、目的地へと進むボンの足取りは軽かった。今から訪れる場所は、前に宇雅が一緒にかくれんぼをして遊んだ、あの男の子の家だ。
「さ、ここです。着きましたよ」
それを聞くと宇雅は、待ってました!と言わんばかりに駆けると家のドアの前で「ンギャァン~ニンギャァ~!」と猫らしからぬ声で鳴いた。
もっと可愛げに鳴け、とボンが心の中でひとりつっこんでいると、その不気味な鳴き声につられて家主が顔を出した。
「あらら、可愛らしい猫さんだこと」
出てきたのは、あの子どもの祖母であった。褒められたことにすっかり気を良くした宇雅――ならぬ宇雅猫は、我が物顔で家の中へと入っていく。それに続けとばかりにボンとメイもそそくさと中へ入る。
吹き抜けのリビングからは、テレビの音が聞こえていた。なにやら歌のようなものが流れているようで、それに合わせて口ずさむ子どもの声がする。おそらくあの子どもだろう。三匹がそっと中へ入ると、ちょうど宇雅が見たいと言っていたアニメが始まったところだった。先ほどの歌はそのオープニング曲だったらしい。
「やった! 間に合ったみたいだ!」
興奮気味に話す宇雅に、くれぐれもおとなしくしているように、と釘を打つボンであったが、それはかなわなかった。
先程の疲れはどこへやら、いきなり走り出したかと思うと、子の隣へどっしりと腰を下ろした。いきなり現れたその見知らぬ猫に驚きつつ、また野良猫が入ってきたのか、とさほど気にしない様子でその子どもは視線をテレビへと戻した。
どうやらこの家にはよく、野良猫が出入りしているようだ。そしてそれを知っての上で、ボンはここを選んだのだった。
アニメが始まると、宇雅はまた「ンギャァァァ~ニンギャァァァァ~!」と不気味な鳴き声を上げた。よほど興奮しているのか、感動しているのかはわからないが物凄く嬉しそうな事だけは、ボンたちにもわかった。
クライマックスで激しいアクションシーンになると、宇雅猫は「ニギャッ」と短く鳴いた。まるでテレビと会話しているようだ、とボンは笑いながら主のその後ろ姿を見守るのだった。
◆
帰り道にて~
「主がテレビに夢中になっていた時、お前どこにいた?」
ボンがメイにそう問うと、メイはひくっと身を縮こまらせて言った。
「おやつを……くれるというのでもらっていました」
「何! 人間から食べ物をもらったときは、上の許可が出るまで待てといつも言っていただろう!」
何を考えているのだ、と怒るボンに反省するメイであったが、この子狐も負けてはいない。
「ボ、ボクも前見ましたですよ! ボン様がどーなつという揚げものを隠れてひとりで食べていたの!」
「なっ……!そ、それはっ、」
言い淀むボンに、いつから聞いていたのかニタァと恐ろし気な笑みを浮かべた彼らの主はその二匹を叱った。
「まずは僕に報告してくれないと困るよ。中にはあまり良くないエネルギーがこもっている物もあるからね」
静かにそう言った宇雅に、頭を下げて無礼を詫びる二匹であったが、次に発せられた言葉にほとほと呆れる神使たちであった。
「僕だってどーなる食べたかった!」
「……主、どーなるではなく、どーなつです」
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