一番の敵


 さくらもチューリップも水仙も咲いて、どこにだって花が咲いているような季節に、僕は十五年を共に過ごした幼馴染と歩いている。


 中学校も卒業して高校も決まった。ここで別れてしまうのか。高校は違うから、いくら近所でも時間が合わなかったり友達とか彼氏ができたりして会えなくなってしまうだろう。

だんだん頭が重くなっていく。自分の靴をみながらぎゅっと口をかみしめた。

会えなくなるなんて嫌だ。言うのには今日しかない。好きだって言わなきゃ。

でも、いつ言おう…。


 不意にほっぺたをぎゅっと引っ張られる。

びっくりして顔を上げると鼻を赤くした幼馴染。幼馴染はひどい花粉症なんだ、毎年鼻のかみすぎで痛々しい鼻のあたまはやっぱり見慣れてしまっていた。


「ねぇ!何考えてるの?」


さっきから話しかけても怖い顔ばっかだし、どうせまた何か緊張するようなこと考えてるんじゃないの?


そういう彼女にはやっぱりお見通しらしくて頭が上がらない。

だってお前に告白するからいつ、どう告白しようか考えてました、なんて言えないだろう。

ええい、当たって砕けろ。今言ってしまえ。


「僕、ずっと」


はくしゅん!!!


漫画のようにきれいな、(いや汚いけれど)くしゃみが炸裂した。


ぽかーん、そんな効果音がぴったりくるぐらい僕は大きな口を開けて固まっていただろう。

だって告白の最中くしゃみなんて、聞いたことない。どんな漫画にもないし、リアルの告白中でもくしゃみでお流れなんて、いっそ漫画化してしまえ。


 幼馴染はあー、とおっさんくさい声を出して洋服のポケットからティッシュを取り出して鼻をかんだ。いくら僕でもあまり大きな音を立てて鼻をかんでいるところは見られたくないのか気を使ってくれているのか静かに鼻をかむ。それなのにくしゃみの音はでかい。変なところで気をつかうヤツだ。


「で?何?」


笑顔で聞いてくる幼馴染は相変わらず輝いていて。本当に鈍感な幼馴染だ。もう十五年一緒にいるのに僕の恋心に気づいてなんていないようだ。


ああ神様、僕の一番の敵は彼女のくしゃみのようです。


 そんなことを思った束の間。彼女の顔がぐっと近づいてきて、彼女が不敵な笑みをして言ったその言葉は、


「早く言ってよ」

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