ノータイトル

真珠

さくらが散る頃

 急に、君に会いたくなって。


三日前に会った場所、遅咲きのさくらが満開になった公園に。


 この前も夜だった。引っ越してきたばかりで土地勘のない僕が、散歩がてらなんとなく向かった公園に静かに佇んでたんだ。


 月の光が綺麗で、星も輝いてて。坂の上に咲く満開のさくらを見ながらその公園に向かう坂を登った。

サンダルでぺたぺた歩きながら公園に入ったらブランコを高く高くこいでる君がいた。


綺麗に切り揃えられたボブの黒髪がゆらゆら揺れてさくらの間から漏れる銀色の月光に、照らされて。僕が覚えているのは淡いピンクのさくらと黒い髪にあの子の横顔。


結局僕は、その光景に、その子に見惚れて話しかけることもできずに坂を下ったのだ。あまりに綺麗で、どうすることもできなくて。


 今日はいるだろうか、ブランコをこいで僅かに微笑む彼女の横顔と月光に照らされる黒髪と、ピンクのさくらは見れるだろうか。


 見れたなら今度は話しかけてみよう。

あの子とお話ししてみよう。学校はどこなのか、何歳で、家はどこなのか。


初対面で馴れ馴れしいだろう、嫌がられるかもしれない。そんなこと、心の中で思っていても行動は全く別で、いきなり好きだと伝えてしまうかもしれないほど彼女が好きになってしまったのだ。


 さくらが散っている。風に乗って飛んでくるさくらが頬をかすめる。

坂を登りきったら目の前の公園。中に入ると滑り台にブランコがあって…。


ああ、また君に会えたのだ。

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