第13話 想定外の客

「な、なんか芝居しばい臭いなあ……」


「ああ、芝居だとも。せっかくなんだから、楽しんでもらいたいしね」


「ふうん……」


 また風景へ釘付けになるリオ。近衞騎士の格好なだけあって、さっそく二人は注目を集めている。

 ヘレクスは彼女の手を強引に引き、そこから急ぎ足で離脱。町の構成が、記憶と変わっていないことを祈り続ける。


「……ねえ、帝都と雰囲気が違くない?」


 引っ張っている間も、彼女の注目は周囲にあった。こりゃあ絶対に手を離せない。確実に迷子になるぞ、この子。

 やはり気合を入れて護衛しなければ、宰相による勇者召喚、その人物情報が漏れている可能性だってある。大勢の人がいる中では、特に警戒しなければならない。

 表情にその決意を見せないまま、ヘレクスは首肯しゅこうする。


「ここは移民が多くてね。先祖代々のブリレオス人が多い帝都とは、都市の精神自体が違うんだよ」


「――ブリレオス人って、そういう受け入れしてるの?」


「いや」


「?」


 あっさりとした否定に、やはり彼女は首を傾げる。

 まあこの辺りは落ち着いてから話そう。さすがに無知のままでは、安心して勝王都を歩きまわれない。

 目当ての店を発見し、二人はさっそく突撃する。

 愛想のいい店主の声を無視して、探すのは出来るだけ無難な服。旅行者を装えれば一番だろう。テニミスと戦争状態だが、異国の人間は多少なり残っているだろうし。

 時間制限である二、三日のあいだ通用すればいい――そんな魂胆に徹底して、まずはマントを。勝王都の近辺は雨が多いし、需要のある商品だ。

 あとは――


「うん?」


 いやこれ、上着脱ぐだけでどうにかならないか? 少し冷えるかもしれないけど。

 動きやすさの点ではまったく問題ないし、マントなり何なりあればズボンも隠せる。何だ、そう悩む必要はなかったんじゃないか。

 思い立ったが吉日。ヘレクスは商品を持って、リオの姿を探し始める。


「……いない?」


 狭い店内を一周したが、自分と店長の方には誰も見当らなかった。

 と、なると。


「ああ、ここにいた」


「っ!?」


 試着室。

 リオはワイシャツを脱ごうとした段階で凍っている。そりゃあ当然だろう。着替えを覗かれたわけなんだし。


「これは失礼。……で、一つ提案があるんだけど」


「なに!? ていうか外に出てよ! 外に!」


「おっと」


 突き飛ばされる形で、ヘレクスは顔を引っ込めた。

 ――しかし、何かが心に引っ掛かる。

 いや、別にもう少し美味しい思いをしたいとか、そんなものではない。ただ妙なもの――本来なら有り得ない筈の何かが、彼女の背中にあったような。

 一瞬で振り向かれたから、本当に予感でしかないのだが。


「あのさ」


「とうっ!」


 今度は拳が飛んできた。

 避ける中、やはり無理かと観念する。これはじゃあ背中を見せてくれ、は通用しなさそうだ。

 と。何やら、店の外が騒がしい。

 多くの人々から注目を集めているようだ。店の外には多数の人だかりが作られ、真偽のほどが不明な情報をやり取りしている。


「リオ、急ぐんだ。妙なことになってる」


「ど、どうかしたの? っていうか、少し離れてくれない? その、ちょっと気になるというか」


「じゃあ気にしないよう頑張ってくれ。僕は君の護衛も兼ねてるんだし、離れるのは主義に反する」


「え、監視宣言?」


 そんなんじゃない。

 しかし表の喧騒は増すばかりだ。一番有り得そうな原因は、砦への攻撃が始まったことだろう。守護騎士の量産型で攻撃していれば、目立つ余波が発生するかもしれない。

 彼らの会話に耳をそばだてつつ、後方のリオにも注意を払う。

 ようやく出てきた彼女は、完全に元の格好だった。ヘレクスが持っているマントを見て、可憐な眉をくもらせる。


「それ、いるの?」


「勝王都は雨が多くてね。持っておいた方がいいと思うよ」


「ふうん……って、外は?」


 騒ぎは今も止まない。やはり本格的に攻撃が始まったのか。

 しかし妙なことに、不安が広がっているような空気ではなかった。心配する声というか、何かを疑問視するような言葉が聞こえてくる。

 ヘレクスはリオと共に、状況を確認するべく店前へ。

 群衆を掻き分けてどうにか進んだ先、いたのは。


「あ、貴方は……!」


「――よう。捨てられた哀れないぬだぜ?」


 守護騎士マルスを統べる、勇者タクト。

 腹に何本もの剣を差しながら、彼は路上に横たわっていた。

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