第5話 迷い、もがきながら(上)


 アイドルの寿命ってなんだと思う?

歌えなくなったとき?

踊れなくなったとき?

女優業に行く人だっているし、歌や踊りがアイドルのすべてじゃないよね。・・・・・・持論。

極論だけど、スキャンダルや不祥事を起こしたときが一番の窮地きゅうちだと思う。

それこそ別の意味でニュースで取り上げられたりして、嫌だけど話題にはなったりするし・・・・・・。

でもその後。

俗に言う干されることになるから、どんどん話題が無くなっていく。

言わば

そういった人たちはもう芸能界に必要とされなくなる。

自分が悪い、自分に非がある・・・・・・と認めてきっぱり自分から足を洗えれば、世間的には一件落着ってことで、“悪の流れ”は次第と消えていく。

でもその後。

芸能界は弱肉強食の世界。世間が必要としている人が生き残って、その他大勢は次第に消えていく。

もちろん、不祥事等を起こせば必要のない人間側になって消えていくんだ。

アイドルだって例外じゃない。


だからアイドルの寿命っていうのは、みんなから忘れ去られたときなんだよ。


それが操作された情報だったとしても。



Lovaeteラベイトの人気は上り調子と言っても過言じゃない。

デビューシングル『トワイライトシンドローム』はCDの売れないこの時代に初週売り上げ10万枚越えを記録し、3枚目のシングルが発売されるまで売り上げランキングトップ10をキープし続けた。

また、仕事も慣れてきた頃に、メンバー達の緊張もほぐれてきたせいか、個々の色が出始めた。

りこちゃん。

おしゃべりが大好きで楽屋や、移動車でずーっと喋っている子。頭の回転が速いし頭も良いみたいだから、ボキャブラリーが豊富で聞いてておもしろいんだけどね。

さくらちゃん。

かわいい物好きで、身に着けてるものから鞄からなにまで女の子が好きそうなかわいい物をいっぱい持ってる。おっとりした性格がファンから人気。また、美食家らしく一人でふらーっとおいしい物食べに行ったりするらしい。

ほたるちゃん。

何事も進んでやってくれる。言っちゃえばリーダ的な存在。頼れるお姉さん的な。確かにしっかり者で頼りがいはすごくあるかな。ちょっと短気なところはたまにきずだけど・・・・・・。

こまちちゃん。

すっごく努力家。そして誰よりグループのことを思ってくれてる。でも、人一倍緊張しやすくて引っ込み思案で弱気な性格だから、ちょっと損してるなぁって思う。でも守ってあげたくなるところが可愛かったりするんだよね。

すずなりちゃん。

lovaeteラベイトの中では男勝りな性格の方。でもちょっとしたところで女の子な面があって、そこが母性をくすぐられる。あたしは見てないんだけど、怒ると怖いと言う噂。確かに怖そう・・・・・・。

・・・・・・みんな良い色してるなぁと、メンバーのあたしが客観視。

それに比べてあたしはなにがあるんだろう?

はたから見た結城ゆうき 紗知さちはどんな人間なんだろう?

アイドルしてのは、どんな子なんだろう?

これまですでに幾多いくたの握手会・ライブをしてきたけど、ファンの人はどういう目であたしを見てくれているんだろう?

やっぱりぱっとしない、このグループに必要の無い存在と思ってるのかな。

デビューしてから変わったことはいっぱいあるけれど、変わらないものは悩みが消えない。尽きない。増えること。



この仕事を始めての一番の不思議は、男関係で取り上げられるアイドル。

めちゃくちゃ忙しいこの職業でそんなことでく時間はどこに?

きっとこの忙しさはあたし達だけじゃないはず。少なからず同じ境遇のアイドルだっているはずだ。

そういったアイドルの、そういったニュースも見たこと無い訳じゃない。

そもそも出会いは少ないほうだと思う。

そりゃ、この世界に生きている以上、所謂いわゆるイケメン俳優、男性アイドルと言われる人たちと仕事をして絡む機会も多いけど、仕事とプライベートは別・・・・・・かなぁ。

連絡先交換してもこっちは返す余裕も時間もないし、もちろんそれ以上の発展は無い。それは他のメンバーも上手いこと付き合っていってるんじゃないかな。

素敵な人がいないって言いたいんじゃないんだけど。

結婚したくないとか、恋愛したくないとか、そんなのじゃない。

あたしだって人並みの幸せは欲しい。

ドラマみたいな運命的な恋愛や、映画みたいなス的な恋をしてみたい。けど、今はそんな余裕ないだけ。

なにより、ファンの方々を裏切りたくないし、「アイドルは恋愛をしちゃいけない生き物だ!」って先日のPV撮影の監督が言ってた。その見解には同意だけどね。

スキャンダラスな行動は慎んでるつもりだし、他のメンバーだってきっとあたしと同じ気持ちだと思う。

今、絶頂街道まっしぐらのレールを踏み外してまで、スキャンダルを起こすメンバーはきっといない。


---・・・・・・


「さっちゃん~。大丈夫だいじょぶ~?」

横から顔を覗き込んでさくらちゃんが声をかけてくれた。

パイプ椅子に腰掛けたあたしとその隣に座ったさくらちゃんは、デビューシングル『トワイライトシンドローム』の振りの確認・復習兼ねての練習をしていて、その休憩を取っている最中だった。あたしはどうやら直後、少し眠ってしまっていたらしい。

「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

ここのところ、色んな考え事してる間に眠ってしまう癖がついた。

これが生放送とかになってしまうと考えるとぞっとする。・・・・・・直さなければ。

「最近多忙だもんね~。体調には気をつけてねぇ?」

眠気が取れない顔で少しの笑顔と会釈で返した。

おっとりさくら様に心配されたあたしは軽く顔を叩いて眠気を覚ます。

スタジオでいくら練習していても、ステージ上では着たことも無いようなドレスや衣装、靴で自分が思ってた感じと違うかったりする。

衣装ごとに動き易い動きにくいはあるし、特にヒールを履いてのターンなんて慣れてないと地獄だ。

「そういえば、りこちゃんは?」

一緒に練習していたりこちゃんの姿が見えない。

眠ったあたしを見限って先に帰ってしまったんじゃないかと言う不安に一瞬襲われる。・・・・・・いや、そんなに寝てたのかな?

「マネージャーさんから電話がかかってきたーって言って今さっき出てったところだよ~」

ふにゃふにゃとした笑顔でさくらちゃんが答えてくれたお陰であたしのしなくていい不安は彼方へと消え去る。

この笑顔はファンの間ではおっとりさくらスマイル・・・・・・通称「おさる」と呼ばれていて、この顔が映っている生写真は高値が付いているんだとか。スマイルはなんで「る」を取ったのかに疑問を抱くと、キリが無さそうなので特に気にはしてない・・・・・・つもり。

さくらちゃんが答え終わると、勢い良くスタジオの扉が開かれる。

そこには元気溌剌げんきはつらつなりこちゃんの声が飛んできた。

「さち!さくら!次のシングル曲決まったよ!」


アイドルとしての時間はあまりにも早く、溺れそうな海で付いていくのがやっとで・・・・・・。

思うように泳げず犬掻きすら出来ないあたしは、それでも付いていく。


そして季節は冬に変わろうとしていた。真冬へと流れていく。

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