第6話 迷い、もがきながら(下)
♪
この雪が降り続いてる間は どうか君の隣に
気持ちが焦がれて 雪を溶かさないように
まだ言えない この冬の白さに思いをそっと込めて
◆
あたし達の次のシングルは冬の歌だった。冬だから冬の曲だと言う安直な考えに乗っかって。
渡された音源と歌詞を見たときにあたしはこの曲をすぐに気に入った。
切ないメロディーに届かない思いを綴った歌詞は若い女性の心を
発売前から音楽番組のテーマソングとしてタイアップが決まっていたりと、流れに乗ってるあたし達に対しての事務所の力の入れ具合を感じた。
デビューシングルのときもそうだったけど、色んな番組やラジオで曲の告知をする。毎回同じセリフを何回も何回も、まるでそのことを喋るためだけのロボットみたく。でもこれもお仕事だと自分に言い聞かせてぐっと堪えた。
センターはあたし。
見た感じ人気があるのはキャラが立ってるさくらちゃんや、りこちゃんなのに、それに比べて見劣りするなんの取り柄もないあたしがセンター。
やっぱり疑問だったけど、それが与えられた仕事ならと、疑問を持つことを止めるようにした。それが事務所の意向だし、偶然成ったものでもないんだからそれを一所懸命に頑張るんだと。
しかし、意図しない追い討ちをかけられる。
歌や振り付けも、2回目のレッスン・・・遅くても3回目のレッスンにはみんな大体のことは覚えて来ていた。
毎日忙しい中で、どこに覚える時間があるんだろうとしか思えない。
レッスン時間も多忙なあたしたちには1時間程度しか当ててもらえず、その時間内で覚えるのはもちろん到底無理な話。
だとするならば、仕事の空き時間や仕事が終わってからじゃないと覚える時間なんて・・・・・・。
向いてないんじゃないか
そのことが頭に
考えたくなかった。
ずっと考えないようにしてた。
だってずっと憧れてたんだから。
幼い頃からの夢をやっと叶えたんだから。アイドルになったんだから、願わくばアイドルのまま死にたい。
弱気になった人から蹴落とされるんだ。
へこたれてちゃダメなんだ、と心の中で自分に痛いほど鞭を打った。
色んな考えが交錯しているあたしに、それは突然やってくる。
◆
「さっちゃん、これほんとなの?」
ほたるちゃんの質問にあたしはすぐに違う、と言いたかった。
しかしその言葉は喉元で消えてしまう。
もう何度も何度も弁解しようとした。何度も何度もメンバーを説得しようとした。
しかし、誰一人疑いの顔は晴れることはなかった。
「なにも言えないってことは本当なんじゃない?」
「これは厳しいかもね・・・・・・」
「どうしてなの?」
メンバーがあたしに質問攻めにする。互いに話し合ったり、驚きを隠せない様子。
そりゃそうだよね、あたしにだって意味が分からない。全く状況も理解してなかったし、できる訳も無かった。なにより当人のあたしが一番驚いてると思う。
そんな感情を誰にぶつけたとしても、すでに動かぬ証拠が揃いも揃って出てしまっている。
「さち、これはほんとにさちなのか?」
苛立ち始めてるほたるちゃんに静止をかけるように今度はすずなりちゃんが問いかけてくる。
冷静を装ってるすずなりちゃんでさえ、聞くことしかできないなんて動揺してるに違いない。
あたし自身、こういう場面を想定していなかったのだけれど、なにもできないのがもどかしい。
一緒に居た時間は短かったけれど、あたしはみんなのこと信用してた。
だけど、どうやらみんなは違ったのかも知れない。
信用って言葉は難しくて、信用してるからこそ疑うってのもわかってる。
けどこれは違う。
アイドルが溢れてるいま、ライバルが一人減るんだとチャンスなんだと、心のどこかで思ってると思う。
誰が仕掛けた罠かわからないけど、こういう状況を作って楽しんでる人がどこかにいる。
質問されたところで答えられるはずが無い。
もちろん、あたしに身に覚えがある筈がない。
自分のことは自分が一番知ってる。
目の前にあるモノがデマカセなんてあたしが良く知ってる。
なにより、仕事が終わったら
プライベートな時間はほとんどなくて、本当に忙しい日は日中ご飯食べる時間が無い時だってあるぐらい。
たまの休みは家のことと買い物で終わるなんてざら。それどころか1日中寝てることもあったかな。
そんなの誰よりもわかってる。
わかってるのに。
「もう一回、説明してくれる?さっちゃん」
【人気絶頂アイドルグループ!!
(ここが辞めどきなのかもしれない)
そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます