第十二話 目覚めは痛みから
「ぐぼぁ」
今朝の僕の第一声である。
ベッドから出たリリアル=ノーブルが寝ぼけていて、足元に寝ていた僕を踏んずけたのだ。
珍しく真面目に謝ってくれたから許したけど、フィリアが近くにいないときの態度は、わりと普通だったかもしれない。
補習の時も真面目な態度だったし
「あんた、本当に大丈夫?」
「大丈夫、痛みよりびっくりしたほうが大きいから」
「ならいいけど」
寝室からでて、隣の部屋で着替えを済ませると、廊下でノーブルを待ってから朝食をとるために食堂に向かう。
その間はとくに会話もなく、けれど嫌な空気ではなかった。
僕がフィリアと一緒にいるときなどは、フィリアが常にしゃべっている感じだったと思う。
早くこちらの世界に馴染めるようにフィリアなりの気遣いだったのかもしれない。
もっぱら最近は教えてもらうことも少なくなり、噂話や世間話になっている。
ノーブルは、自分から話かけるタイプではないらしく、こちらが話しかけると、返事をしてくれる程度だ。
「さ、ここが食堂だよ」
「さすがフィリア様の家の食堂! 立派だわ」
ただフィリアに関する話題になると、饒舌になる。
「ノーブルは本当にフィリアが大好きなんだね」
「そういった俗な感情じゃなく、忠誠心と言ってほしいわね」
どうやら僕たちが一番乗りらしく、食堂には誰も居なかった。
テーブルが置いてあるこの部屋とは別室の、調理場からいい匂いがしている。
僕がテーブルに座ろうとしていると、ノーブルはテーブルを素通りして調理場に向かおうとした。
「そっちは調理場だよ」
「でしょうね」
「ここで座って待っていれば、食事が運ばれてくるから」
「そうはいかないわ。調理には間に合わなかったけど、せめて配膳くらいは手伝いたいもの」
「……それもそうだね」
いつのまにやら王族のような生活習慣が僕にも身に付いていたみたいだ。
僕もノーブルについていくことにする。
「別に止めはしないけど」
テーブルに朝食を並べ終えた頃に、食堂についたフィリアに驚かれた。
3人で朝食を食べる。
フィリアが僕たちを見て話しかけてきた。
「お主たち、いつの間にそれほど仲がよくなったのじゃ」
「フィリア様、別に私はこいつを特に嫌ってはいないのですが」
「そうなの?」
「なんで不思議そうな顔をする。一度だけだが勉強も教えてやっただろう」
「だって、いまだにあんまり名前で呼ばれないし、にらまれるし、僕にだけ乱暴な口調だし」
「睨んでなどいない、もとよりこういう顔だ。口調をあらげるのはしつけのためだ。もっとお前は王族に対する態度を改めるべきだ。……名前は(男子の名前を呼ぶなど……恥ずかしい……だろう……)」
「え? 最後だけ聞こえなかったんだけど」
「うるさい! とにかく変えるつもりはない」
「ユーキの私に対する態度についても、変えなくてもよいぞ」
「フィリア様! しかし、それでは……」
「よいのじゃ。……王城に住まうものはみな位(くらい)が高くなければならん。ならば住んでいる時点でそれなりの地位を与えられているのと同じじゃ」
「……」
「じゃあノーブルも一緒だね。昨日から泊まってるわけだし」
「なっ」
「そうじゃ、そうじゃ。堅苦しい敬語など使わんでよいぞ」
「わ、わたしはフィリア様に忠誠を捧げる者です! それ以上でもそれ以下でもありません!!」
「あ」
ノーブルは食べかけの朝食を置いて、食堂を出ていってしまった。
「ごめんフィリア!」
僕は両手に2人分の朝食を持つと、すぐに追いかけた。
ノーブルは寝室に戻っていた。
「あ……。そうか……、一応私は襲撃者だしな」
一瞬ノーブルの顔が嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。
「なに言ってるの。操られていたんでしょ」
「…………」
ノーブルは黙って朝食を受けとると食べ始めた。
食べ終わってから、また沈黙が続くと思っていたら、ノーブルのほうから話し始めた。
「……うちは代々エリフィン王国に仕える召し使いの家系なのよ。」
「そうなんだ」
「小さいころから、家族はみんな王国に仕えるために生まれたんだ!それが幸せなんだ!って育てられた。でも私はそういうことは別に嫌ではなかったの」
僕は黙って聞いていた。
ノーブル家は、王国建国からある古い家柄で、代々王国の兵士として召し抱えられていたらしい。
男は屈強な兵士として、女は優秀な使用人として。
その中で、リリアル=ノーブルは両方の才能を持って生まれた。
リリアル=ノーブルの両親は子だくさんで、ほかに兄妹も多かったが、才能にあふれるノーブルをかわいがった。
そんな妹に嫉妬したほかの兄妹たちは、両親にゴマをすっているんだと蔑んだりしたという。
やがて反発した兄妹たちは家を出て行ってしまったらしいが、一人残ったリリアル=ノーブルは、成長し、今に至る。
王国に仕えるという目的だけをもって。
「兄貴たちはさ、フィリア様に会えば変わったかもしれなかったな」
「どうして?」
「私が親の刷り込みだけで仕えようと思ったわけじゃないってことよ。小さいころ、まだ立って歩けるようになったばかりだったけど、よく覚えてる。親がフィリア様の前に連れて行ってくれたの。そこでね、本物の王女様にあったのよ。年は変わらないはずなのに、しっかりと立っているフィリア様を見た瞬間、この人に一生仕えられたら私はどんなに幸せなんだろうって思えたのよ」
「確かにフィリアには不思議な魅力があるよね」
うんうん。と、うなずきながら午前いっぱいはノーブルとフィリア談義にふけった。
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