第十一話 戦争の気配と王子の性格

僕は気が付くと、またフィリアのベッドに寝かされていた。

意識が戻ってすぐに飛び起きると、フィリアの姿を探す。


「フィリア!」


フィリアはベッドの横にいた。

僕が突然叫んだので驚いた顔をしていたけど、魔法がちゃんと効いたみたいで大丈夫そうだ。

ただ、気になるのはノーブルだ。


「よかった。無事だったんだねフィリア」

「おかげさまでの。それよりも無茶苦茶するのう。おぬしが魔力切れで倒れるほどじゃ、相当高度な言霊だったのじゃろう」

「そうなのかな? 僕にそんなに魔力があるような感じはしないんだけど。それよりノーブルは?」

「あやつは今は拘束しておる」

「……!」

「安心しろ。手荒な真似はするなと厳命しておる。……今度こたびの件、どうにもキナ臭くてな。それを抜きにしても付き合いの長い学友じゃ。私もリリアルを信じたい……」


フィリアもノーブルを信じてくれているようで安心した。

でもキナ臭いってどういうことだろう。


「それを今探らせておる。……普通魔力切れで倒れると、丸一日は起きないのじゃが、おぬしには当てはまらないようじゃ。本当に規格外じゃのう。意識が戻る前には調べ終えて、おぬしを安心させてやろうと思っておったのに」

「本当に自覚はないんだけどね。決闘のときにも言っていたけど、そんなにおかしいのかな」

「そうじゃ。しばらくは情報もあつまらんし、少し話してやろう」


そういうとフィリアは部屋にあるベルを鳴らす。

ここしばらくの生活でよく見た動作だ。

あれで隣室の使用人を呼んで、いろいろ頼んだりする。

今は飲み物と軽食を頼んでいる。

僕はベッドからでて、部屋にあるテーブルについた。

フィリアに止められたけど、ベッドにいたまま軽食をつまむわけにはいかないしね。行儀悪いし。

足元がふらついたような気がするけど気のせいだ。

フィリアに心配をかけるわけには今ないので気合で踏ん張った。


コーヒーとお菓子が届いて、フィリアが話し始めてくれた。

魔力について。

一般的な魔力量は一生変わらないらしい。

生まれつき魔力量が多い人もいれば、少ないひともいる。

まったく無い人はいないらしく、少なくとも生活魔法には困らないらしい。

それ以外は努力と才能とお金で補える。

努力して魔力効率をあげて少ない魔力で媒体ガーデをつくったり、言霊を放ったり、足りない魔力は専用の補助道具ブースターをつかえばいいそうだ。

僕はその生まれ持った魔力量が桁外れなのだそうだ。

生活魔法なら一日中打ってもなくならないし、決闘で使ったような戦闘用魔法でも疲れを感じなかった。

そもそも、言霊を放つにも魔力を消費していることにすら気づかないレベルなのだから。

それでいて僕はまだ魔力効率に関しては未熟もいいとこなので、努力すればもっと魔法を使うことができる。

そうなれば、今日みたいに倒れることもないかもしれない。

それまでは、道具にたよるのも悪くはないのかも。

でもあまり道具に頼りすぎるのもよくないそうだ。

魔力効率を上げる技術は、感覚でしかないので、使わないとすぐに落ちるらしい。

その鍛錬法もおしえてもらった。

実はフィリアの考えた秘密の鍛錬法で、このあと一か月後にジュディアスにも教えてあげるのだけど、ジュディアスも驚くほど良い特訓だった。フィリアから教えてもらったといったら少しだけにらまれたけど。

コーヒーもなくなり、話も一段落ついた。

甘いお菓子に、苦めのコーヒーが合っておいしかった。

僕はこういう苦いコーヒーが好きなので大満足だ。

でも、フィリアは甘党らしく、一緒に運ばれてきた角砂糖を四つくらい入れている。

お菓子も相当甘いのに、口の中が大変なことにならないのだろうか。


「そういえば、ジュディアスは?」

「おう、忘れておったのじゃ。実のところ、ジュディアスに探らせておってな。そろそろ報告がきてもよいころなのじゃが」

「そうだったの! なんか悪い気がするな。決闘でだいぶ疲れてたみたいだし」

「……そうだよ。少しは僕のことも心配してほしいな」


部屋の入り口を見ると、二人の人物が立っていた。

一人は王子様モードのジュディアスともう一人は……ノーブル!


「フィリア様!!」


ノーブルはフィリアの膝元に崩れるように駆け寄ると、泣きながら語り始めた。

意識はあったものの、何かに憑かれているようだったこと。

しかし、少なからずそういう感情があったこと。

抑えられなかったことへの謝罪。

起きてしまった後悔。


「私はとんでもないことをしてしまいました……」

「リリアル」

「フィリア様。お許しください。すべては私の未熟な感情のいたすところ……」

「ならん。私は一生許さぬじゃろう」

「ああ! どうかお慈悲を。私はいまだフィリア様への忠誠心は失ってはおりませぬ」


フィリアは泣きじゃくるノーブルのほほに手を添えた。


「リリアル。許さぬ。……愛する国民に手をだした賊と、近くにいながら守りきれなかった自分自身を一生許さぬじゃろう。安心しろ。二度目はない」

「……! フィリア様!!」


それからノーブルが落ち着くのをまって、僕たちは客間に場所を変えた。

客間のソファに向かい合って座り、ジュディアスの報告を聞いた。


「僕が調べた情報によると、まず最近になって大臣たちの一部に戦争をしたがっている空気がながれているようだ」

「戦争? 今更戦争なぞ、どこの国が仕掛けるのじゃ」

「それが我が国レタウの大臣さ。しかも仕掛ける先がエリフィンだという」

「そんなまさか! エリフィンとレタウは戦後に一番友好な関係を築いている国同士ではありませんか!」

「そうさ、だからこれは国の内側から持ち上がった空気じゃない」

「どういうことじゃ」

「フィリア、武器商人という噂を聞いたことはないかい?」

「武器商人?」


武器商人というのは戦前世界中にいた国を持たない集団で、お金を払えばなんでも融通したらしい。

敵も味方もなく、いざぶつかってみたら武器商人の雇った傭兵同士の戦いになっていたり、より高いほうのお金が用意できたほうに良い武器を渡したり、情報を流したり、盗んだり、とにかく何でもしたのだ。

戦後、大国ができて平和になってからは、その姿を消していた武器商人たちは、実は姿を変えて、生き残っていたという噂だ。

それが今回の話に関わってくるらしい。


「あくまで噂レベルだから確証はないけど、僕は国民や大臣を疑うより、武器商人の存在を疑っている。そこにいるリリアルがいい例さ」


む、ジュディアスはノーブルをリリアルと呼べるのか、僕は殴られるのに。イケメンってずるい。

若干リリアルとよばれてうれしそうなのは気のせいだろうか。


「でも申し訳ありません。噂に聞くような存在に心当たりなどなくて……」

「そうか。でもそしたらどうやってリリアルが操られたのか」

「それは今後の調査で明らかにするしかなかろう。あれでリリアルの憑依が解けたとも限らん。保護も兼ねてしばらくは王城で預かろう」

「フィリア様と一つ屋根の下!」

「場所はすまんがユーキと同室じゃ」

「……チッ」

「うう、ノーブルの態度が冷たい」

「(悪いの、何かあったときにおぬしと一緒にいてくれたほうが助かるのじゃ。おぬしの力を信じてまかせる。私の友人を守ってくれ)」

「(そういうことならまかせてよ!)」

「そこ! フィリア様に近すぎるわよ!」

「そうだ! 決着はついてないんだからなユーキ!」


なんだかノーブルが二人になったみたいだ。

それにしても女の子と同じ部屋。

フィリアにはまかせろなんて言っちゃったけど、冷静に考えたら大変なことなんじゃ。

いや、僕の借りている部屋は広いし大丈夫と思いたい。

それにずっと一緒なわけではないし。大丈夫大丈夫。たぶん……。


ジュディアスはこの国の宿に戻るらしく、話し合いが終わるとデウナス執事と帰って行った。

玄関で見送ったあと、廊下でフィリアと別れる。

もう夜も遅く、あとは寝るだけなので、ノーブルを部屋に案内する。


「ここが僕が借りてる部屋だよ」

「ふーん、さすがフィリア様のお城だわ。あんたなんかに貸す部屋も上等なのね。あ、襲ってきたら殺すから」

「そ、そんなことしないよ。逆に襲われないか心配だよ」


そういうと、操られていたことを思い出したのか、泣きそうになる。


「ご、ごめん。そういう意味じゃなくて! なにかあったら僕もなんとかする力はあると思うから、安心してよ」

「ふん! デリカシーのない男に守られても、全然ときめかないけどね」

「あはは……」


力なく答えたところでベッドのある奥まで進む。

ところでベッドは一つなんだけど、どうしよう。

あ、ノーブルの顔が赤くなってる。

珍しいな。あ、気づいた。……痛い! 意味もなくはたかれた。


「うん、僕は床で毛布にくるまって寝るから大丈夫だから」

「そ、そう? いくらあんたでもそれは悪い気がするんだけど」

「僕の故郷では床に寝る風習があるんだよ。……こうして敷いた毛布の上に寝れば、痛くないしね」

「あんたがそれでいいならいいけど」

「じゃあおやすみ」

「……おやすみ」

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