第二話 王との謁見

今は昔、この世界が一度統一されてから、しばらくしたのち、また世界がいくつかの国に分かれてしまった。原因は、文明から消しきれなかった文字の存在である。

一国に一文字は受け継がれ、その言霊の力によって戦争が起こった。強い国は弱い国から文字を奪い、さらにその力を強大にしていった。しかし、小国が消えていき、大国だらけになってくると、世界はまた平穏を取り戻しつつあった。力の均衡が保たれている現在の状態は、一時の安穏な空気を国民にもたらす一方で、各国の王族、つまりは直接文字を受け継ぐ者たちは、平和の裏の一触即発な冷戦状態に神経をすり減らす日々を送っていた。

そんな王族に拾われた僕は、この世界の力の均衡なんて丸ごとひっくり返すような力を持っていた。

とある本を図書館で見つけた僕は、そのせいで今いる世界に飛ばされて、気絶していたところを王女フィリアに拾われた。そのさいこの世界のことを聞いて、当然この世界に関係ない僕は文字の読み書きなんて普通にできるし、しかもこの世界の文明の文字って普通に僕が学校で教わってたものと一緒なんだもん。

事情を知ったフィリアは僕をどうするかすごく悩んでいた。

おそらく僕のことを王に話せば、王は僕のことを手放さなくなるだろう。けれどもそうなったら最後、僕は元の世界に返してもらえなくなる。

僕はまだこの世界に来たばかりで、帰れるかどうかもわからないし、帰りたいかどうかも気持ちの整理ができないでいた。

フィリアがこちらを振り返り訊ねてきた。


「どうじゃ、このまま王にあわせてやるが、お主、元の世界に帰りたいか?」


僕は正直に話した。


「まだ、わからない。この世界は面白そうで、とても魅力的だけど、元いた世界だって、嫌いなわけじゃなかったんだ……。」


それを聞くとフィリアは悲しそうな、困った顔をした。

そんな顔させてしまった自分の言動にひどく後悔した。


「ごめん、そんな顔しないで。君を困らせるようなことはしたくない。」

「すまんな。」


そういうとフィリアは僕の頭をくしゃっとなでた。こういうのは立場が逆だと思うんだけどなあと、僕は身長差を呪いたくなったけど、なんだろう、フィリアにされるのはいやじゃないなあ。そう思うと、考えが少しまとまった。


「……まだわからないことだらけだけど、フィリアのお父さんなら僕、大丈夫だと思う。だから、事情を話してもいいよ。それに、できる限り協力もする。」


フィリアは見るからに表情が明るくなった。


「そうか……よし、じゃあ行こう!」


そういって、謁見の間の扉を両手でゆっくりと開けた。

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