#7 想像、あるいは創造
平坂はゆっくりと話し始めた。
「この前話したと思うけど、私は神を信じていない。というよりも、人を救わないような神なんて必要ないと思ってる」
家族を奪われた平坂の得た、ひとつの答えがそれ。
「夜方君はさ、神ってなんだと思う?」
無から光あれと世界を作りたまいし父なる神。…特定の宗教に影響されすぎだな、それは。
世界をこのフォーマットで形成した始めの者。それが僕の思う神。
「一般論的にはそうだよね。でも私はもう一段階進んで考えてみた」
「つまり?」
「造物主としての神は一旦棚に上げて、もう一種類の神が想定できるよね」
造物主ではない神。つまりそれはあらゆる宗教や神話における天地創造以後の神のことだろうか。
「おしい。それはね、世界の運営者としての神」
僕の答えを拡張するように、平坂が続けた。運営者としての神?
僕が考え込んでいる間に、平坂は玉子焼きを箸で半分に割り、口に運んだ。
「天地創造より後の神は、各々世界の構成要素を担うために生み出された。火の神とか水の神とか、そんな感じ。それはつまり、はじまりの神が作った世界を円滑に運営していく役割を与えられたとも言える」
ちゃんと玉子焼きを飲み込んでから、平坂が再び口を開く。
平坂の論は少しの違和感はあるが、概ね納得のいくものだった。
「私が敵とみなすのはね、そんな世界を運営している『神』なんだよ。造物主は基本的にその後の世界にはノータッチ。では世界をこんな風に回してるのは誰の責任かってこと」
平坂の言葉は続く。
「時代は下って、神は科学に次々と貶められていった。でも『神』は固有名詞じゃなくて、厳密には役職みたいなものだと私は思うの。だから神はある意味で不滅。その座に座る者がいなくならない限りはね」
神秘とされていた御業は、現代では小学生でも知っている化学反応だった。
そんな話は世界中あらゆる場所に溢れかえっている。
「人間の世界は、その時々によって挿げ替わる『神の座にいる者』によって運営されてきた。それなら、今の人間社会の在り方を方向付けるものってなに?」
それはすでに答えが出ている気がするけど。
「それこそ『神』なんじゃないのか?」
平坂は少しもどかしそうに口を結んで、また開いた。
「じゃあ、人間社会の在り方を方向付ける『神』って何だと思う?」
これはおそらく核心。平坂の憎悪の対象が、この問の先にいる。
僕はそれを確かに感じた。そして僕の答えを待たず、平坂があっさりとその名を口にした。
「それはね、人間だよ」
平坂は満面の笑みで、そう言った。
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