20160415 エスケープ・フロム・ゾンビーズ

(1)

 私は数人の仲間達と共に、とある温泉旅館の別館に宿泊する事になった。

 この旅館には、かつての夢の中でも来た事がある気がする。少し離れたところに本館があり、どちらに宿泊してももう一方の温泉に入れるのだ。

 別館の玄関を入り奥を見ると、受付の先にすぐ、畳敷きの中に15cm程度しかない深さの湯船が埋まった部屋があるのが判る。ほぼ足湯状態ではあるが、ここに入るにはタオルは必須。万が一の間違いもあってはならない。


 その温泉に、小さな男の子を連れた母親と、その友人らしき女性達がやって来た。混浴のようである。

 私が目の遣り場に困っていると、突如、部屋が丸ごと動き始めた。

 実はこの温泉部屋は別館と本館を繋ぐケーブルカーの上にあったのだ。部屋は本館に向かって、“住宅地の中を”突き進んでゆく。この辺りは確かに田舎ではあるが、一戸建てや低階層のビルが途切れない程度には人口が多いのだ。

 ケーブルカーは、極めて見晴らしのよい作りになっている。タオルは必須。万が一の間違いもあってはならない。


 かくして私は……大きな本館ホテルに辿り着いた。


(2)

 気がつくと私は、見知らぬ白い部屋にいた。服は着ている。

 この部屋は壁も床も天井も、真っ白いすりガラスで出来ていた。恐らくは建物の外から入ってくる光が、建物全体を薄暗い白に染め上げているのだ。


 建物は、全体としてはどうやら円筒形をしているらしかった。部屋が、四つ切りにしたバウムクーヘンのような弧を描いているからだ。

 そして部屋には私のほかに、温泉の時とは違ってもう一人の人物がいた。どのような人物であったのかは思い出せないが、兎に角一つだけ言えるのは、彼と私とは、この建物に用はないという事だった。


 私は、部屋から外に出る唯一の扉――建物の左回りの壁の、外壁にほど近い場所にあるやはりガラスの扉――を開く。するとその向こうから……ゾンビ!!

 ゾンビの姿は私の知人の一人によく似ていたが、こんな時に彼に捕まればどうなるかなどは、火を見るよりも明らかだろう。私は、躊躇わず彼を打ち倒す事にした。

 大方の予想通り、ゾンビは極めてしぶとかった。そして、力も強い。だが……知能はほとんど無きに等しいようで、私達は彼を今私達が出てきた部屋に閉じ込める事により、何とか事無きを得る事ができた。


 部屋を出た私達が見たのは、こちらは透明ガラス張りの、芯の部分に当たる階段室だった。上下を見ればどうやらここは3階立て中の3階らしく、私達はこれを1階まで降りれば脱出できるようだ。

 私達は1階に降りようとした。が、そこにはゾンビが待ち構えており、私達は2階への逆戻りを余儀なくされた。だがゾンビは私達を追ってくる……私達は2階の部屋に飛び込んだ。

 が……そこには、別のゾンビがいたのだ!


 そのゾンビは、何故かPCに夢中になっていた。何とか彼を排除した私が見ると、Windows95か98のように見えるそのPCは、ウイルスに侵されていたらしい。タスクバーを含んだ画面全体が、まるで縮小コピーされたかのようにウィンドウになっている。そして、そのウィンドウを閉じると画面全体が、まるでスナップショットでも取ったかのように再度コピーされて次のウィンドウが生まれるのだ。

 タスクマネージャを確認すると、explorer.exeと幾つかのプロセスが、プロセスリストの一部だけが高速スクロールするかのように、猛烈な速度で出来たり消えたりを繰り返していた。ゾンビはどうやら、この様子に釘付けになっていたらしい。


 ゾンビの弱点は……『動くモノ』であるようだ。

 すなわち、ゾンビは動くモノを本能的に襲うので、私達が身を潜めており、近くに別のものが動いている限り、私達が襲われる事はない。

 そして……その推理は、すぐに正しいとわかる事になる。


 PCを利用してゾンビ達をやり過ごし、どうにか1階に降りた私達は、まずは二手に分かれる事にした。そして最初は私が動かず彼が大袈裟な動きでゾンビを引きつけて、彼が襲われそうになった時、彼は動きを止めて私が動き出すのだ。

 この作戦は上手く行った。そしてついに建物の外に飛び出した時……私達を、さらなる事実が待ち受けていた。


 ガラス製の建物は、地下駐車場のような施設の中、出口にほど近い場所に建っていた。

 私達が助かるためには、まずは目の前のコンクリートの斜面を登り、外側の建物からも脱出しなければならない……だがその斜面の上には……さらなる数のゾンビの集団!

 だが私達は、彼らから逃げる術を既に持っている。ここでも、同じ事をすればいいだけだ。

 かくして、私達の最後の戦いは始まったのだ。




 なおその後、全ては映画の撮影か何かであるらしく、私達が思い切り殴り倒したのは特殊メイクした生身の人間であった事が判明するのだが、最早私の知った事ではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る