幻夢郷を彷徨いて

@tomotomo_sakura

20160414 道の先の博士

(1)

 とある博士が、新型の自動車自動運転装置を発明した。

 その装置とは、フラクタルによる3DCG自動生成アルゴリズムを逆転応用するものだ。フラクタルによるCG自動生成とはつまり、我々の世界がフラクタル的構造を持つ事は広く知られた話で、それを利用すればリアリティのあるCGが簡単な再帰プログラムで作れるという話であるが、この装置は車載カメラで撮影した風景と仮作成したCGの一致度を計算する事で自動運転をするらしい。その具体的な技術は不明だが、恐らく、この先の道路形状の予測に使って加減速を制御するのだろう。

 が、この装置には重大な欠点があった。

 風景を撮影できる昼間は、まだプロトタイプだからか極めて危なげながらも、辛うじてぐねぐねとした山道(片側一斜線で大型トラックが通るような道――次章以降に向け、この事は覚えておいてほしい)を行って帰ってこれた。だが夜間は……行きは辛うじてどうにかなったものの、私達の車は帰り道、谷側の茂みに突っ込んで止まった。危うく、斜面から落下するところであった。

 私達は、博士に文句を言わねばならなかった。よって、博士の元へと向かったのであった。


(2)

 道中に見つけた広場は、等高線の形に曲がりくねる道が、ちょうど谷の部分に差し掛かったところにあった。よく、誰が作ったのか掘っ立て小屋があるような、あんな場所だと思ってくれればいい。

 この広場は随分としっかりと整備されているようで、自然公園にあるような丸太柵風のコンクリート柵が周囲を囲っていた。その外側もある程度歩けるようにはなっているようだが……如何せん、所々を木々が邪魔して上手く通れない。なのにこの広場を真上から見れば(この辺りから、視点はRPG風の画面を見ているようなものになっていた。シーンも全て黄色と濃緑の、ゲームボーイ風のドット絵になっている)、明らかに、その木々の間に何かがある。

 だが私は、とあるメモを手に入れていた。

 そこには、←↑↓→の4つの記号が、然るべき順番に並んでいる……隠しコマンドだ。

 私は広場の北西の端に陣取って、そのコマンドを入力した。するとコマンドが進む度、本来、木に邪魔されて進めないはずの道を、私はすり抜けるように木々の間にあるものに近付いてゆく。

 果たして私はそれを手に入れた。どんな用途があるのかは、結局わからず仕舞いではあったが。

 私は、広場で待つ『制作者』の女性に、何故こんな隠しコマンドを入れたのかと訊いてみた。その際、何らかの答えがあった筈だが、生憎起床後の私は憶えていない。


 ここで視点は通常のものに戻る。

 一つの目的を達成した私は、本来の目的――すなわち博士の待つ場所に向かう事を思い出した。


(3)

 博士がいたのはその道の先だった。

 山中の幹線道路だと思っていたそれは、いつの間にか人がすれ違えるかどうかのハイキングコースになっていた。博士は、山側が壁となり、谷側が柵となったその場所に、各種道具を持ったまま待機していたはずだった。

 だがそこに……博士の姿はない。代わりに現場に遺されていたのは、争ったような跡。

 恐らく何者かが、博士を崖下に放り投げたのだ。

 情けない事に私は、グロテスクな光景を直視してしまう事を恐れ、何もできないでいた。代わりに崖下を覗き込んだのは、15歳と18歳の少女(何故知ってるかって? 某PBWの私のキャラの知り合いだからだ)だ……そして私の予想通り、博士は変わり果てた姿で発見された。


 私達は警察を呼んだ。しかし私達はこの場所をどう言えばいいのか判らず、登山口の近くにあるマンションの名を出して「その前の山」と伝えたのだ。

 無論、これでは警察も来れないだろう……なので私は長い山道を駆け下り、そこで来たはいいがその先の行動に困った警官達の姿を見つけ、その後に逆側から山を降りた少女達(どちらの道から降りても同じマンションの近くに出るため、どちらから警官が現れてもいいよう二手に分かれたのだ)を拾いつつ、元の場所に戻ろうとした。

 が……ようやく戻ってきた私達が見たのは、博士の死体を発見した野次馬が、どこからともなく集まってきていた光景であった。


(4)

 一度、話は火星に飛ぶ。

 テラフォーミングによる植民地の発展した火星は、今や滅亡の危機に瀕していた。

 原因は……一人の女性。いや、女性の姿を取ってはいるが、実際にはとある種類の微生物だ。

 その微生物には、概念を取り込み、それを現実化するという能力があった。それがどのように作用したのか、恐らく彼女はどこかのタイミングで、人類滅亡という概念を取り込んでしまったのだろう。

 無論私は(といってもこれは真の意味での『私』ではなく、単に『夢の中で主観がフォーカスされた人物』でしかなかったのであろうが)、これを宇宙空間で破壊しようと試みた。だが彼女には私の兵器は効かず、遂に地球への落下を許してしまう!


 ところ変わって地球。

 私は、博士の死体の近くの山頂に広がる駐車場で、弟と共に彼女と相対していた。

 だが無論、兵器でも倒せぬ敵を徒手空拳の人間二人が倒せるわけがない。しかも彼女は地球に到達して以降、さらなる進化を遂げている。

 だがその時……弟が、とある置き標識を発見した。

『この先通行止め。Uターン』

 その場に放置されていたそれを、弟は女に投げつける! すると女はその標識の概念を、丸ごと取り込んでしまったではないか!

 来た時に地上をバウンドしてきた通りに、そのまま逆戻りしてゆく女。何度かのバウンドの際に周囲に限定的な被害を出しはするものの……そのまま女は、宇宙へ――恐らくは火星へ、さらには火星の前にいた場所へと還ってゆく。

 流石は、私の自慢の弟である。


 かくして世界は救われた。ならば私は、元の仕事に戻らねばなるまい。

 それはすなわち、刑事らを博士の死体の元へと案内すること。

 だが、女が引き起こした天変地異のせいか、細い山道はほぼなくなっており、私達は崖に張りつくように目的地に向かわねばならなかった。

 何度かの足を踏み外す危機を乗り越え、頭上の建物の腐りかけた金属柵にひやっとさせられつつ道をゆき……建物の反対側に辿り着いたところで私はふと気付く。


 わざわざ山道の通りに中腹を進まなくても、すぐ上に駐車場が広がってるんだからそこ歩けば楽だったじゃねーか。

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