第二十七章 決着
ロイドの挑発に乗せられ、小藤弘は怒りの感情を露にし、目を血走らせていた。かすみはロイドが執拗に小藤を挑発する理由に気づいていた。
(小藤に力を使わせないためのように見えるけど、違うのね、ロイド)
ロイドは小藤の冷静さを失わせ、その隙に倒そうと考えている訳ではない。彼は別の事を想定していた。小藤がロイドの思惑を誤って解釈し、再びロイドを支配しようとするのを待っているのだ。かすみはそれを頭の中で考えないようにし、小藤の動向を予知能力で探るフリをした。とにかく今は、小藤にこちらの手の内を読ませない事に集中しようと思った。
「道明寺かすみ、俺が隙を作って心の中を見せるとでも思ったのか? 甘いぞ、クソガキ共が!」
小藤は勝ち誇ったようにかすみを睨み据える。更に治子が
「お前も同じだ、手塚治子! クソガキ共がどれほど知恵を
小藤は本性を剥き出しにしていた。そのため、治子は小藤の秘密を覗く事はできなかったが、彼の過去が少しだけ見えた。
(どういう事?)
治子はそれを見て自分の力を疑った。
(これはまさか、小藤が意図的に見せている作り物の過去なの?)
そう思ってしまう程、それは衝撃的だった。その瞬間、小藤が治子の力に気づいた。
「何を見ている、クソガキ!」
小藤は右手の指先から炎を繰り出した。
「治子先輩、危ない!」
留美子が
(そう……。そういう事なのね。天馬翔子は他人の能力をコピーできた。でも、この男はコピーではなく、食ってしまうのね。
治子は一瞬のうちにそこまで読み解いてしまった。怒りに任せて小藤が発火能力を使ったお陰だった。
「ふざけやがって!」
小藤は治子に自分のもう一つの能力を覗かれてしまった事に気づき、歯軋りすると、
「てめえからぶち殺してやる!」
再びロイドを支配し始めた。
「ぐう……」
ロイドは先程より強力な小藤の支配を受け、治子に向けてサイコキネシスを発動させた。
「無駄よ!」
かすみは素早く治子のそばに行き、予知能力を発動させ、治子の千里眼と融合してサイコキネシスの波動を消してしまった。
「うおお!」
小藤の様子が変わった。度重なる失敗に我慢の限界に達したようだった。顔は真っ赤になり、目の血走り方も尋常ではなくなっていた。
「ぐああ!」
するとロイドの苦しみ方も変わった。顔中に血管を浮き上がらせ、口と鼻から血を噴き出している。
「ロイド!」
かすみは目を見開いて叫んだ。
「ロイド、力を振り絞れ! そいつらをまとめて粉微塵にするくらいのサイコキネシスを使うのだ!」
小藤の目には狂気が宿り、口からは
「うああ!」
ロイドの身体は瓦礫の上に浮き上がり、その身体は発光していた。
(このままじゃ、ロイドが死んでしまう!)
かすみはロイドが小藤に抵抗しているのだと思った。ところがロイドは、かすみを見ると微かに頷いてみせた。
「え?」
かすみはそれが何を意味するのかすぐにはわからなかったが、治子も自分を見ているのを知り、理解した。
「まとめて死んでしまえ!」
小藤は高笑いしてロイドに力の発動をさせた。そのほんの一瞬前、かすみは溜めていた
「地獄でショウコ・テンマが待っているぞ、外道」
小藤は慌てて力を吸い込む空間を開こうとしたが、遅かった。ロイドの渾身の一撃がその身を襲っていたのだ。小藤の身体は真ん中から二つに千切れて吹き飛び、校庭の植え込みの上に叩きつけられた。何の防御もできなかった結果、彼の肉体のほとんどはロイドのサイコキネシスで消失していた。かすみと治子と留美子は思わず目を伏せた。
「ぐふええ……」
胸から上だけになってしまった小藤は、口から赤黒い血を吐き散らし、地面をのたうち回っていた。
「まだ生きているのか、外道? さすがに生命力は強いようだな」
ロイドはフロックコートのポケットから取り出した真っ白いハンカチで口と鼻から出た血を拭いながら、そのガラス玉のような目で小藤を見下ろした。
「おのれえ!」
小藤は多少は動かせる両腕で必死になってロイドから離れようともがいている。かすみと治子と留美子は恐る恐るロイドの後ろから小藤を覗き見た。治子と留美子はその途端吐き気を催したのか、目を背けてしまった。かすみは辛うじて襲って来る嘔吐感を押さえ、小藤を見た。あれほどの力を誇っていた男も、今は哀れなだけだった。
「お前は、異空間に力を吸い込む能力と人を支配して操る能力を同時に使えない。だから、そこを突いた」
ロイドはごく冷静に解説した。かすみもそれを瞬間的に感じ、ロイドを飛ばしたのだ。
(この戦い、治子さんが小藤の力の欠点に気づいていなければ、勝てなかった)
かすみはまだ自分達を睨みつけている小藤の生命力に驚愕した。
「なるほど、そういう事か。大したものだよ、ハロルド。お世辞ではなく、君は素晴らしいサイキックだ」
小藤は冷静さを取り戻したらしく、また
「だが、私を殺せば、もっと恐ろしい未来が待っている事はわかっているのかね?」
不敵な笑みを浮かべる余裕すら見せた。かすみはギクッとしてロイドに視線を移す。ロイドは小藤を見たままで、
「わかっている。だが、だからと言って、貴様を生かしておく理由にはならない」
小藤はそれを聞いてフッと笑い、
「もちろん、君に命乞いなどするつもりはない。そうか、わかっているのならもう何も言うまい」
そう言うと、目を閉じた。ロイドは右手に力を溜め始めていた。かすみはハッとして、
「ロイド、ダメ!」
叫んで止めようとしたが、
「貴様はこの世に細胞一つも残させない!」
ロイドは目を見開き、小藤に業火を叩きつけた。
「ロイド?」
かすみは唖然とした。
(ロイドにはパイロキネシスはないはず……。もしかして……?)
かすみはロイドを見つめた。
「ありがとう、ハロルド。君達が来るのを楽しみに待っているよ」
小藤は炎に焼かれながらも笑っていた。
「生憎だが、俺は地獄に落ちる予定はない」
ロイドは燃え盛る炎を見つめて呟いた。かすみは小藤が何故か嬉しそうに死んでいくのを感じていた。
(天馬翔子と同じ死に方をするの?)
かつて戦った前理事長の天馬翔子も最後は炎の中で笑いながら燃え尽きていったのだ。やがて炎は次第に小さくなり、小藤は燃えかすすら残さずに焼失してしまった。こうして、激しかった戦いは幕を下ろした。
治子の千里眼によって、高等部の生徒達全員の無事が確認でき、かすみは屋上に縛りつけていた蒲生千紘の所に行った。治子と留美子は賛成しなかったのだが、かすみは千紘に小藤が死んだ事を告げ、縄跳びの縄を解いた。千紘はすっかり大人しくなっており、
「ありがとう……」
小さな声で自分を間接的に助けてくれたかすみに礼を言った。
「森石さん達がもうすぐ来るわ。アルカナ・メディアナの事も、聞き出せると思う」
治子が告げた。かすみは森石章太郎と新堂みずほ、そして中里満智子の修羅場を想像して、苦笑いした。
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