第0.5話 委員会議事録01
「すでに異世界転移は、一万件を超えました」
「いちまん!? ちょっと前までは、多くて数十程度だったろう」
「なぜ、こんなに急激な増加を…」
「増加の理由は解明できておりませんが、増加した事より、その結果に問題を抱えている事が、本委員会発足の理由であります」
「大変なことになっているそうだな…」
「私の担当支局など、本当にひどいありさまですよ…対応にまったく人手が足りない!」
「これまで、不幸にも異世界へ転移した生命体は、その世界に馴染めず命を終えることが多く、影響も無いに等しいものでした」
「うむ…」
「しかし、現在起きている転移では、真逆の状況ばかりです! まず、異常な馴染み方! まるで予め心得があったのではないかとさえ思われる、対応力のずば抜けた個体ばかりが転移しております」
「…誰か、手引したものがいるということかね…」
「まあ、お待ちなさい。まだ原因がつかめていない段階での犯人探しは、疑心暗鬼を生むだけですわ」
「ありがとうございます。私の報告に私見が交じりましたことを、皆様にお詫び申し上げます…さて、続けさせていただきます。これら、対応力の高い転移生命は、さらに厄介な、転移先世界にはない知識や能力、物品を持ち込むなどもしております」
「いや、それは以前からあっただろう、というか世界が違うのだからあって当たり前のことだ」
「それが武力バランスの崩壊や、文明改革を引き起こしても、でしょうか?」
「!? そんなに?」
「あーゆうのって、大体は説話化したり、後の時代でよくわからんオカルトグッズ扱いされるレベルの影響力だったろう」
「国が滅ぶレベルになっております」
「はぁ!?」
「なんと…」
「大災害じゃないか」
「おっしゃるとおりです。まだ物だけならば、取り除けば良いですが、生命はそうできません。自由意志の元に、転移先世界へ多大なる影響を与えているのが現状です」
「なぜそんなことに」
「先に報告しましたとおり、まだ解明はできておりませんが、観測された事象として、これらの転移生命には膨大な運命力が流れ込んでおります。例えるなら、世界という風呂桶の底に開いた穴にコンドームを突っ込んだようなもので…」
「あいつ、喩え話下手だな」
「このゴム風船の中に溜まった運命力を逆流させることで、多大な混乱を引き起こしている模様です」
「…それ、すでに開いた穴に対しては、なんの影響も無しで収束させることは難しいんじゃないかね?」
「そのとおりです。よって根源的な解決が望まれます。起きてしまった転移に対しては…対処療法となります」
「ま、それしかないな」
「いつもどおり、またお役所仕事と叩かれるまでがセットだね」
「で、根っ子の場所さえ見当がついとらんのでは、我々が呼ばれた意味も薄いが…」
「はい。このたび、委員会が発足された理由は、その原因解明に繋がる一端を掴むことができたからに、他なりません」
「ようやく、本題か」
「いいから、もったいつけず言い給え」
「はい。転移生命のほとんどが同じ特徴をもっておりまして、調査の結果、同種の生命体であることが判明いたしました」
「ほう! では最悪、その発生源を潰せばよいな」
「ちょっと、そういう暴力的な…」
「最悪と言ってるじゃないか」
「あ、ええ…、最悪の事態を回避するために、解析班は尽力いたしておりますが…、皆様にも関係各所へ今暫くのご辛抱のご通達、ならびにお力添えをお願いしたく…」
「結局、まだこのくそ忙しい状況が続くわけか…」
「解析は任せるとして、対処療法の方はどうするんだ」
「それについても皆様の…」
「良い方法があるぞ」
「発生源の管理をしていた者が居るだろう。そいつにやらせればいい」
異世界転移撲滅委員会よりの指導です。 Jack Amano @JackAmano
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