no.48 ヲウマガ『灯火を得よ』

 花種を眺めることが好きだった。彼女たちは笑って出迎えてくれる。

 彼女たちの輪に混ざって、踊ることも好きだった。ステージで見せるようなものではなく、ただ手と手をとりあうだけの単純な動き。

 それでも楽しかったのは、温度を感じられたからだろうか。共に笑いあえたからだろうか。それはステキな時間だった。


「今度、お花をみにいこうよ」

 "おかあさん"を誘ったが「いいの」と笑って彼女は断る。

 花種が苦手なのかもしれない。とてもかわいくて、いい子たちなのに。つらいことを忘れさせてくれる、キラキラとした存在なのに。

 

 花種かのじょたちは庭師種に世話され、家主種の庭に居ると定められていた。


 ――ある日、花種に会いに行った時のことだ。

 庭に忍び込もうとした手を庭師種に掴まれた。とっさに謝ろうとしたが口も塞がれ、そのまま茂みに倒された。2種の姿は緑に紛れる。

 綺麗に整えられた低木の隙間からは庭の様子が伺えた。花種たちが家主種にちぎられ、バラバラになって箱詰めされていく。


 それが生まれて初めて認識した『死』であった。


 やがて花種たちは現れた貴族種に引き取られていった。

 家主種は低木の影に目線を向けると、明確にに声をかけた。

「お前のせいだよ」


 庭師種は黙っていた。子種も、口を塞がれたまま。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 駅前の通り。露天商に混じって一角を陣取って、ダンボール箱の上にタロットカードを並べていたら女に声をかけられた。

「占いやってるんですか?」

「おう」

 でもこんな胡散臭いニーサンに占ってもらうより、ちゃんとしたお店に行った方がいいんじゃない? と聞いたら「誰でもよかったんです」なんて彼女は言う。


 "誰でもよかった"なんて。無差別殺人するヤツって、こんな言い方するんだろうなぁと思いながら占った。恋愛運だったが、まぁよろしくない結果だ。


 結果をオブラートに包んで伝えると、彼女は「ありがとうございます」と口元だけで笑って頭を下げた。すべてを諦めた顔だったから、ああこりゃ今日のうちにでも別れるんだろうなぁと占わずとも分かる。


 受け取ったお代は千円札。これで夜食でも調達しよう。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「お前には、彼女がこういう風に見えていたんですか?」


 卓上にはメンテナンスのために分解された銃器と設計図。その端に、黒髪の女らしき絵が描かれている。神経質そうな薄い線はそれだけで「ソグ博士によって描かれたもの」だという証明になる。


「似ているだろう?」

「存外かわいらしい絵柄なのですね」

「そんなつもりじゃないけどなァ。おれは研究者だから簡潔そして写実的に描く」

「では、やはりお前にはこう見えていたと……あまり似ていないですよ」

 設計図を掲げ、幽霊の隣に持っていく。黒髪の女は不快そうに片眉をあげた。

「そこにいるのか?」

 ソグ博士が問う。ドルトンは、今なんて、と問い返した。

「だから、あの女はそこにいるのか?」


 ソグは親から逸れて教会に迷い込んだ子と同じ眼をしている。あれからずっと。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「お兄さん占いどうです?」

「占い、ですか」


 段ボール箱の上に並ぶタロットカードを眺めていた男は、オレが声をかけると我に返ったような顔を見せた。それまでオレの存在を認識していなかったような反応だったので少しだけ腹がたつ。

 自慢じゃないがオレは男にも女にもモテる、この顔のおかげでだ。そして並んでいるタロットカードは量産品。見るべきはどちらか分かるだろうに!


 正直にそう言うと男は「貴方には興味がないのです」って困ったように笑った。フラれちまった。でも占いを受ける気になったのか、黒いコートのポケットからピン札の一万円を差し出した。多すぎるのでくしゃくしゃの千円札を9枚返す。


「さて何が知りたい? 恋愛運?」

 提案したら露骨に嫌そうな口元をつくられた。客の男は前髪が長くて、目元がわからない。

「そういうのは結構です。そうですね……なにか、今後の人生の指標、のようなものでも……」

 漠然としている。オレはタロットカードを切って、並べて、選ばせた。

「ところでお兄さん、葬式帰り?」

「そういう結果が出ましたか?」

「いや、スーツ黒いしネクタイ地味だし。でも仕事帰りにしては服がヨレてない。それに紙袋を下げている」

「……それがこの世界の葬式に出る格好なのですね」

「世界?」


 大げさなこと言うぜ、と肩をすくめるジェスチャーを見せたら相手は軽く首を捻った。言葉が流暢だけど外国の人?

 ……それなら「死の匂いがまとわりついているから」みたいなオカルトじみた直感を伝えるのはやめておこう。オレは昔からそういう匂いに敏感なんだけど、さすがに説明が難しい。


 せめて靴下の色でも変えれば葬式帰りには見えないんじゃないか。そうアドバイスしようと思って、オレは気づいてしまった――足元から、影がふたり分伸びている。

 驚いて視線を上げたら男の背後に幽霊が見えた。

 匂いに敏感なんて言ってる場合じゃない、ここまでくっきりしているのは生まれてはじめて出会う。

 彼と同じ黒い髪を持つ、ぼさぼさに伸ばした不健康そうな女の幽霊だ。


「結果はどうでしたか?」

 オレの手が止まったことに男から指摘が入った。お客さんにヤバイ目つきの女の幽霊が憑いてますよって教えた方がいいかなぁ。気づいていないならそのままの方がいいかなぁ。

 オレは半端に迷いながら、タロットカードを配って、めくる。その中から正位置の『法王』のカードを指さした。

「お兄さん、すっごく安定してるみたいだぜ。自分の中では何をすべきか、実は答えが出ているんだろう?」

 オレの言葉を聞いて男は唇を強く結ぶ。続いて正位置の『皇帝』のカードに目線を誘導してあげる。

「自信を持って進みたいって思ってんのな。仮に自覚がなくても――心の深いところでは」

「そんな、ばかな」


 男は露骨に頭を抱えた。彼の人生が相談がはじまるかなと思ったけれど、待っても待っても口を閉ざしたまま。

 言いたくないならそれでいい。オレはあくまでカードの読み手で導きの者だ。占いで、先の見えない人生に灯火を与えるのだ。

 その火を受けてどの道を進むのかは受け手次第である。


「優柔不断なのはやめた方がいいぜ。今さら迷うなってこった。目的を失う、それはお兄さんにとって"悪手"となる」

 逆位置の『恋人』のカードを指した。目の前の男は苦しそうな顔を見せる。


 ……まだ何枚もカードが残っているのに、男は折りたたみ椅子から立ち上がってしまった。「もう大丈夫です」と早口で。大丈夫に見えないけれど、アンタがその道を選ぶというならオレに強く止める権利はない。どうせ行きずりの関係だ。


「まぁ所詮は占いだし、あんまり振り回されなくていいと思うよ。ところでお兄さん、最近肩こりとかしない?」

「肩こり? それも占いですか?」

「いや~オレには見えちゃってて……その……女の人の、幽霊、みたいな?」


 男はなんにも答えず、会釈だけして走り去った。余計な指摘しちまったかなぁ。


 オレは気を取り直して次の客を待つ。するとスマートフォンが大げさな音をたてた。うっかりマナーモードにするのを忘れていた。客が帰った後でよかったよ。

 差出人は『誰でもよかった女』。

 実は彼女とは、あれからプライベートでも会うようになってしまった。最近こういう御縁が続いているから、あの男とだってもう一度くらいは会っちゃうかもな。


 これは占いじゃなくてただの予感だ。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ドルトンは死体の夢を見る。見覚えのない女を「おかあさん」と呼び、彼女にすがりついて泣いている。

 すでに母の躰は冷たく、あまりにも分かりやすい暴力と凌辱の跡があった。「どうして」と周りに問うが、聞くに堪えない罵詈雑言が返ってくる。それは死した母種の尊厳を著しく貶める類のもので、耳をふさぐ気力すら削ぐ。


 母は見せしめ用の華美な衣装を身に着けていた。ドルトンは彼女を胸に抱いて泣き喚く。Comaの中心で太陽裁定者が脈動している。


『お前のせいだよ』


 生まれてはじめて創造主神様から受けた言葉がそれだった。しかもどこかで聞き覚えのある、この場で最も聞きたくない類の、天啓としては低品質なお告げだった。

 それでも、天啓は天啓だ。

 無数の手が自分を指さしている。重ねて大きな声だった。子種は萎縮し体をビクリと震わせる。叱責の声ひとつで子種は力を失う。そういう"つくり"だ。子種は他者に従う役目を持つ。


「わたしのせい、なの……」


 ドルトンの喉奥から漏れ出た声は黒髪の女と同質の声。おかあさん、ごめんなさい。私のせいで。私のせいで、こんなことになっちゃった。

 嗚咽をあげる子種を見下し、他種はゆっくりとその場を離れる。神様ハジマリは街を照らす。それはいつもの夜だ。


「……。」

 子種は不意に泣き止んだ。それは知識の無さと経験の薄さが本質を浮き彫りにする、子種特有の側面。故に彼女は気づいてしまう。


「わたしの、せいなの?」


 母種の死体を石畳の上に置いて眺める。おかあさんに痣をつけたのは。苦しめたのは。犯したのは。指示したのは。損なったのは。嗤ったのは。支配したのは。壊したのは。殺したのは。

「わたしじゃない」

 悪いのは誰か。被害者わたしではなく加害者あなた。しかし絶対者かみさまは、加害者を赦し被害者を突き放した。母種がそういう"役割"だと認定した。遠くに聞こえる拍手の音。己が判断を讃えよ。


 従順の象徴、または反抗の可能性を秘める者、成長する存在、そして決して成熟には至れない運命。

 それでも"子種"が立ち上がるのは。


「おまえたちだろう!」


 ――渦巻く忿懣を胸に抱いてドルトンは目を覚ます。

 このところ、いつも凄惨な気分で朝を迎えていた。


 ベッドサイドに腰掛けたソグ博士が、ドルトンを見下ろし柔らかな笑みを浮かべている。きっといつかのドルトンが黒髪の女に向けていたのと同じ様相。ドルトンの首元に伸ばすソグの細い指は、長い黒髪をすくうような仕草を繰り返していた。そこには何もないのだけれど。


 ソグ博士がようやく彼にとっての救いを見つけたのだとドルトンは理解しつつある。起き上がると竜の首飾りが音を立てた。その音に、ソグ博士は我に返ったのか立ち上がる。


「標的の居場所が分かったぞ」

「それじゃあ向かいましょう」


 互いにもう大人、成人年齢に達しているという意味で……だから、なんでもないふりをする。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「香水の匂い、すごいですね」


 運転席で『誰でもよかったんです女』は顔をしかめた。タバコ吸うからこれでごまかしてんのよと説明したらすぐに納得してくれた。夕焼け空の下のドライブ、なかなか好きなシチュエーションなのにちょっと出鼻を挫かれた気分だ。

 

 オレは助手席で行き先不明のドライブを楽しんでいる。自分については占わないようにしているから、このデートの終着点がどうなるかは分からない。オレは暗闇を歩くのが好きなんだと常に周りに吹聴している。我が道に灯火は必要ない。見えていたらつまらない。


 白い軽自動車はガタガタと大げさに揺れながら山道をいく。行き先はホテルじゃなさそうだ……それともこの道の先に隠れ家レストランがあるのかもしれない。オレそういう隠された場所は大好き。そういえば『注文の多い料理店』はオレが一番好きな話なんだ。でもオレならオチをもう少しハッピーエンドに変えちゃうね。

 ――『誰でもよかった女』はオレの話に相槌をうつだけで、自分から話をふってこない。いつものことだ。


 フロントガラスの外に目を向けると、トンネルに巣食う幽霊が見えた。オレンジの光に照らされていて綺麗だ。逢魔が時は幽霊がいっぱい見えるからキライじゃない。「やっぱり居るもんだなぁ」とわざと見える人の優越感を装いながら言ってやった。

「地縛霊って悲しいよな。こんなところに留まってないでさ、仮に殺されたんなら、犯人に憑いていけばいいのになぁ?」

 そもそも同じ場所にいるのってつまんないじゃんと地縛霊について見解を述べると、強めの呼吸音が聞こえた。笑い声にしては切羽詰まったもの。

「でもヲウマガさんはいつもあの場所で占いをしていますよね」

「そうなんだよ。根っこがあるみたいに、ってアレ?」


 トンネルを抜けたと思ったら車は山中の停車帯にとまった。そのまま「降りましょう」と言って女は先に行ってしまう。

 腕時計で確認すると時刻は午後五時、それにしちゃ暗い。草木生い茂る山道をゆっくり下る『誰でもよかった女』。とんだアウトドア派じゃないの。


 ――そういえばオレらは互いに名乗っていないのだけれど、いつのまにオレの名前を知ったんだろう?


 それでも強引な女は嫌いじゃないからオレは口笛吹きながら後ろを追いかけた。暗い道を灯火もなく。女は茂みをかきわけ歩いていたが、とある地点で立ち止まった。そのまま後ろに数歩下がる。

「なにあれ」

「オレからしたら『ここどこ』だよ。なんだい虫でも出た?」


 当然、虫なんかじゃないかった

 女が指さした先、影法師のようなモノが地面を掘り返していた。


 眺めているとそれは穴から何かを取り出しているようで……しかし茂みの影でよく見えない。同行人を守るためと、湧き上がる好奇心から、オレは進んで影に近づいた。とんだデートだ。


「アンタ、どうしてここに?」


 影法師の正体は手を土まみれにしている黒衣の男。つい最近占った男だ。あんな別れ方をしたのだから、そう簡単に忘れるわけがない。

 彼は掘り起こしたを抱えている。死体なんてはじめて見るな……と観察して、オレは気づいてしまう。

 腐敗が進んでいるそれが着ている服には見覚えがあった。ライブTシャツとヴィンテージジーンズ。根本が黒くなった白金色の髪。


 その死体、オレの弟じゃん。


「どうしてここに貴方が?」

「いやいやいやこっちだよそれ先に言ったのこっちだよね?」

 男の制止の手をのけて、オレは死体のポケットに手を突っ込んだ。親父のお下がりのブランド財布が出てきて、中には予想通り『ヲウマガ・ミレン』の運転免許証。あと『誰でもよかったんです女』とのツーショットチェキ。なんだよ、わけじゃないのかよ。


「……掘り起こすの、あなたに手伝ってほしくて」

 絞り出すような女の声が背後から聞こえた。オレはさといのでそれで女の事情がおおかた把握できる。わざとらしくため息をついてやった。

 でも黒衣の男の事情は、さすがに推測できない!


「で、お兄さんがって、こういうこと?」

 問えば男は死体を抱きしめた。そんなことすると服が汚れちまうよ。 

「カシュに、ヤヌシシュですか」

 唐突に男と言葉が通じなくなった。やっぱり外国の人だったんだ!

「えーっと、ゴメン、もういっかい言って?」

「花種……いえ、何でもありません。彼の死体はこちらで引き取ります」

 今度は理解できる言葉だったが、内容はとても理解できなかった。

「そりゃないぜ、そいつはオレの弟なんだよ。勝手に連れていかないで、あと勝手に殺さないで」

「殺されていたんです。手間が省けました」


 黒衣の男は死体を離す素振りを見せない。わけがわからない。ミレンはこんな目にあうような悪いヤツじゃなかったはずだ。それともお兄ちゃんに言えないことしてた? オレが往来で占いやって適当に生きてる男だから頼りにならなかった? アイツ将来何になりたいって、何年前に言ってたっけ……?

 

「アンタはなんだ、ミレンのツレ?」

 悔しくなって声がちょっと震える。弟が死んでたことも結構なショックなのに。

「カモフラで自分が2号扱いだったなら死体でもいいから復讐したくなるかもしんないけどさぁ」

「えっと、すみません、意味がわからず……」

 今度は黒衣の男が困惑している。難しい言い方しちゃってごめんな。

「その人のことは知りませんし、私が浮気してた方です」

 女が口を挟んできた。やっぱり『誰でもよかった女』じゃねぇの。オレの評価は二転三転、ついでにこれからどうしたらいいのかも暗中模索。


 どうしたもんかとアゴヒゲをかいていたら、林のうちの一本が銀色に輝きはじめたので、オレの脳が状況把握を放棄してしまった。

 陽がほぼ堕ちた宵闇の山で、銀に輝く木だけが目立つ。竹取物語ってこんな感じだったのかなと、どうでもいい感想が浮かぶ……どんな悪い夢なんだこれは。

 ミレンよオレの弟よどうしてこんなことに巻き込まれているんだ怒らないから天国で再会したらお兄ちゃんに教えてどうかそれまで生まれ変わらずに待っていて。


「もう行きます……さようなら。彼の死体は大事に使います」

 男はミレンの死体を連れだって銀色に光る樹に手を置いた。

「待てって! オレの弟だぞ! 勝手に使うな!」

 現実逃避している場合じゃない、去ろうとするあの男を止めないと。葬式は身内であげたいし、なにより死体がないと警察にも説明できない。親だって泣く。さめざめと泣く様子が想像できる。


 オレは黒衣の男に追いすがったが、後ろから襟首を掴まれすぐに引き剥がされてしまった。邪魔するのは誰だと振り向いたら、あの時の女の幽霊だ! こいつら何がしたいんだ! ミレンとの関係がわからない!


「……花の香り」

 幽霊女が慈しむような声で言うので、オレはびっくりして動けなかった。

 そんな声、元カノにだって母ちゃんにだってかけられたことない。

 

 結局オレはその声で立ち竦んでしまい、男とミレンと幽霊女は銀の光の向こうに消えてしまった。辺りは暗闇に包まれる。逢魔が時は過ぎ、これより長い夜が繰る。


「えーっと」


 オレたちは取り残された。どれだけ木を叩いても蹴っても反応はない。銀の光は夢みたいに消え、今ではただの雑木林。仕方がないので、掘り返された穴の前で座り込む『誰でもよかった女』に声をかける。


「……オレの弟、アンタが殺したの?」

「関係を切ろうとしたの。でも泣いてすがられて……さっきのあなたみたいに。それで、カバンで頭を、殴ってしまって」

「殴りたくなるかもな。カッコ悪かっただろ、さっきのオレみたいに」

「でも悪い人じゃなかった。殺すつもりもなかった」

 ずっと淡々と喋る女だったけど、後悔でくしゃくしゃになった顔。どうやっても元には戻らないことがある。彼女に灯火は強すぎた。だからオレに白状した。


「とりあえず、警察いこっか」


 目を閉じると、銀色の灯火が眼裏まなうらにこびりついていた。

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