no.30ホネッコパクパク『おたくのワンちゃん大満足!』

 コンビニバイトをしていると、たまに奇妙な客を見かけることがある。なかでも今日見かけた客はとびっきりで、店内に入るなり「あっ」と声をあげてペット用品コーナーに走って向かったんだ。女なのに長くて黒い髪をボサボサにしたままで、長年外に出たことがありませんとでも言いたげな見た目をしていたから、なんか印象に残ってるよ。

 で、その客が手に取ったのが『ホネッコパクパク』だ。純正の骨を使ってるイヌ科用のおやつ。レジから見てたけど、その女は何かこう「運命の相手と出会った!」みたいな顔してたね。衝撃がはしる、みたいなヤツ? イヌのおやつにそんな顔するのもどうかと思ってたけど……ま、この辺じゃうちしか取り扱ってない商品だったし、ずっと探してたのかもな。

 とか思ってたらさ、その女、店内にあった袋を全部レジに持って来やがんの! 他の商品には目もくれずによ? よっぽど腹を空かせた狂狼ワーグでも飼っていたのかね。ひょっとしたら、偏屈な金持ちの家で飼われてる犬の世話係をしているのかも。ならその狂狼じみた陰気な見た目も納得だな。――ま、そんなことを思いながらレジ通したわけ。支払いに使ったお金もなんか汚れがこびりついている感じで、なんか薄気味悪かったな。


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 例の女はしばらくうちの常連客だったよ。時折きては、他の商品には目もくれず、ほんと興味なしって感じで、『ホネッコパクパク』だけごっそり飼っていくんだ。

 でさ、ある日店内の在庫についてまで聞いてきたから、もうメーカーから直接仕入れればいいじゃんってつい言っちゃったよ。だってわざわざコンビニで買うなんて非効率じゃない? って思っていたのと別に、あんまりこの女が出入りすると妙なウワサがたつからさ……っていう気持ちもあった。不気味な女が出入りするコンビニなんてすでに言われていたし。

 それから女は、うちの店には来なくなったな。店長が彼女のためにちょっと多めに『ホネッコパクパク』を入荷していたみたいで、在庫をいつまでもだぶつかせていた。それはちょっと、申し訳ないことをしたと思ったね。


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 就職活動を経て、俺は食品会社に勤めることになった。『株式会社クロンフーズ』と迷ったけれど、こっちはクローン人間を材料にしている会社だからやめておいた。給料はいいんだけど、彼女が「そういう所やめてほしい」って言うからさ。俺はそのあたり、別に偏見ないんだけど。

 俺はクロンフーズのライバル会社『株式会社テラナチュラル』に入社した。各部門が大体クロンフーズに負けてるもので、情報収集としてクロンフーズの決算説明会の質疑応答まで読む羽目になっちまった。クローン人間がらみの質問が多くて、興味本位の人も随分多いんだろうなと厭な気分にさせられる。

 やけにペット用フード部門の質問が充実していて、なるほど『ホネッコパクパク』はとんでもない人気商品なんだなぁと改めて感じられた。こっちは完全天然物による商品ってことをアピールしていきたいんだけど、そういうのを売りにしている食品会社、掃いて捨てるほどあるからなぁ。


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 今朝のニュースで『株式会社クロンフーズ』が食品偽装問題が取り沙汰されていた。あまりにも強大すぎるライバル会社がひとつ消えた! 俺たちの業界の勢力図は大きく変わるだろう。ここが正念場だ。息子もこれから学院の入試を控えているし、ここで一発当てたいものだ。

 ああ、クロンフーズはペット用フード部門がやらかしたらしい。なんでも超定番商品の『ホネッコパクパク』が、実際の表記と違う材料が使われていたとか。

 人骨98%ってのが売りだったし、だから値段もめちゃくちゃ高かっただけに、信頼はあっというまに失墜だな。

 でも、なんで成分が違うって気づいたんだろうな? 割と精巧な代替成分が使われていたって話らしいが。なんでもそれが明るみに出たのが株主総会だったそうだ。同僚の話では、ボサボサの黒髪の女が、すごい剣幕で壇上の責任者に詰め寄っていって、総会は大騒ぎになったとか。

 ……ボサボサの黒髪の女ね、昔バイト先で見かけた女のことを思い出す。狂狼ワーグ飼いってヤツは、似たようなものが多いのかね。

 そういえば新卒から「クロンフーズが撤退するであろうクローン商品をうちでも開発すべきじゃないか」って提案されたけど、無理な話だよ。業務用のクローン人間として使用できる人間オリジナルは政府支給であって、新規購入には膨大な申請書と、とんでもない額と、莫大な認定時間が必要になる。まぁ大方、クロンフーズの食品偽装は、なんらかの事故でオリジナルを紛失しちまって、別の何かで代用したんだろうな。今更撤退ってワケにもいかないだろうし。

 そこまでして人骨がいいのかって思うと、人間ってのは業が深いもんだ。

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