ⅲ グレゴリールームに3人

no.21 なきがらとキッチン

 ドルトンの胃袋はとうに空っぽだったので、今の彼は胃液しか吐けない。

 死肉を削いで、骨を取る作業に従事する。

 むごい、むごい。

 彼が従う教義では、死者は竜の火で丁重に浄化しなければならないのに。

 これでは死者への冒涜だ。

 しかし、銃弾になれないドルトンは、黒髪の女の小間使いになるしかなかった。


 流し台、包丁、かまど、数々の薬草。肉と骨。まるで料理をつくるような光景。


 隣に立つ黒髪の女は、無表情のまま骨をすりつぶす作業を進めている。

 ごり、ごり、ごり、ごり。

 部屋に響く音は誰かの泣き声に聞こえてしまう。

 この骨の主は、黒髪の女に殺されたのだろうか?

 それとも死んだあとに、なきがらだけ回収されたのだろうか?


 名も知らぬ黒髪の女と、ソグ博士という病的な男曰く。

 ソグもドルトンもこの死体も、同じ魂を持つらしい。

 そして"黒髪の女"こそが彼らの根源オリジナル

 つまり彼女こそが我らの祖だと博士は嗤ったが、それはドルトンの信じる教えとは違う。

 ドルトンは決して受け入れない。

「ウルク・グア・グアランド様……!」

 己が祖の竜神の名を呟き正気を保とうとする。


 ドルトンはこうして、部屋に充満する異臭と自らの胃液の味に苦しめられながら、HappyBulletの作成を手伝っている。


 もちろん最初はドルトンも反抗した。

 しかし黒髪の女に発砲されてから、泣く泣く抵抗を諦めた。

 鉛の弾が都合よく首筋をかすっただけで済んだのは、女の銃の腕が悪いからだとソグが笑っていた。


 だから銃弾の数は多い方がいいのだと。


 ドルトンは、分解された肉と骨に祈りを捧げる。

 自分が来て、自分を殺し、自分を銃弾につくりかえていく。

 それもこの人が"立派な人間"だったばかりに。

 むごい、むごい。


 ドルトンは殺人者と化した自分くろかみのおんなに異を唱えることはできない。

 ならば、同じ魂を持つ自分ドルトンが魂の安寧を祈ることで、せめてもの慰めにならないだろうか。


 黒髪の女が"悪意"ならば、ドルトンは"善意"を。

 ……祈りの言葉を囁きながら男はスプーン片手に死肉を削いでいく。


 黒髪の女は、不気味な呪文を囁きながら肉を削いでいくドルトンを眺め「狂っているな」と思ったが、口には出さず己の作業に没頭した。

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