no.18ツー『♪vs魔王』

 陰鬱なバッグ・グラウンド・ミュージックは、まさかの生演奏だった。上階に並ぶ魔族たちの楽隊を眺め、黒髪の女は目を細めた。視界を下ろすと、豪奢な椅子に"魔王"が座っている。

「ようこそ! 会えて嬉しいぞ、アンダーアルスの民よ!」

 長いツノ、ウェーブのかかった髪、額の宝石。

「まさか単独ソロでここまでたどり着くとはのう! それともなんだ、仲間はこの城で、我が眷属に屠られたか!?」

 煽る口からは星屑が溢れる。銀に輝くまつげがまばたきを繰り返す時にも。

「だがそれも、城に入った時に覚悟はしたはずだ。ここで死んだら親にも会えぬとな! ふははは!」

 黒衣に包まれているのは華奢な肢体。覗くのは白い肌。魔王はまだ少女だった。力で世界を脅かす存在ではない、と黒髪の女は推測してひとこと。

「魔導型か……」

「魔王、だ!」

 独り言に反応して魔王は怒る。気の強そうな虹色の眼が歪んだ。

「魔王でも七発いちにんまえか…」

「そうだ、私はもうとっくに一人前だ。なんたって、この世界を潤しているのだからな! 一致団結する目標を民に与え、様々な雇用を生み出し、そして技術の向上を促した!」

 魔王の自慢に、黒髪の女は目を細めた。

「ずいぶんと傲慢に育ったものだ」

「我が母と同じことを言うのだな! 実に腹の立つ!」

 魔王も、黒髪の女と同様に目を細める。


「さあ、前口上は終わりだ! 音楽変更!」

 魔王の指示を受け、魔族の楽団が演奏を変える。テンポのよい、それでいて高揚感を煽る壮大な音楽が『魔王の間』に響き渡る。

「武器をとれ、挑戦者。貴様のジョブはアサシンか?」

暗殺者アサシン? こんなに堂々と、お前の前に居るのに」

「だって装備が銃じゃないか」

「ああ、そう」

 女は言われたとおりに銃を構え、そして魔王に向けて発砲した。弾は珍しく狙い通りに跳び、魔王の胸元に孔を穿つ。その瞬間、撃った所が白く輝いた。

「「……!?」」

 女と魔王は、同時に怪訝の表情を浮かべる。

「なぜ避けない」

「なぜ癒した?」

 最初は女で、次は魔王。ふたりは同時にふーと息を吐いた。楽隊は、空気を読んで演奏を控えめにする。そうして次に口を開いたのは、魔王の方だった。


「正直、私はもう疲れておる。何回蘇り、民に進化を促しただろう……? 今回で世界征服とやらは何回目だ? ああ、数えるのも飽き飽きだ。だから避けなかった。終わらせてほしかった!」

 音楽は悲壮なものに変わっている。アドリブのくせに、つなぎのセンスが卓越しているな、と女はどうでもいいことを考えていた。

「それなのに……貴様は私を初手で癒やす。傷を受けてもいないこの私を……なんだなんだ、貴様は、嫌がらせをしに、わざわざ此処まで来たのか!?」

「……なぜ癒すかと問われても、癒す気などさらさらなかった」

 HappyBulletが魔王に効かない。女は舌打ちをした。魔王が続ける。

「私を倒すためには、アンダーアルスに散らばる7つのエレメンタルドロップが必要だ。それはこの世界の常識だ。しかしまさか、それもなしに、この城にまで乗り込んで来たのか!? 城の各所には、ドロップがないと開かない扉があるはずだが……」

 魔王は忘れているようだが、黒髪の女は先刻、『魔王の間』の天井に、次元扉を開いてやってきた。


 魔王の困惑の声を聞き、女は把握した。この世界には、厳密なルールが存在する。黒髪の女もまた、この世界のルールが適用されてしまったのだ。正しい方法でないと魔王は殺せない。本来、渡り歩くだけの世界の仔細など気にしない女だったが、殺せないなら話は別だ。面倒だ、ここは諦めるか、どうせ最大7発だ……女が逡巡しはじめた時、背後の黒い扉がバン!! と音を立てて勢いよく開いた。


「魔王! 今こそお前を倒し、このアンダーアルスに平和を取り戻してみせる!」

 虹の光を逆行にして現れたのは、勇者と賢者と医者とマッチョの4人。

「"アサシン"!? お前、どうしてここに……!?」

 黒髪の女を見て、勇者が驚きと喜びの入り混じった声をあげる。

「"勇者"様、きっと幻覚です。"アサシン"なら皆で弔ったでしょう……」

 賢者が勇者を窘める。

「じゃあ幽霊か!? 死してなお足止めをしていたとは……実にお前らしいな!」

「最終決戦はどうしても共に戦いたかった、そういうことだろう?」

 マッチョが感慨深げに決めつけ、医者も勝手に決めつける。空気を読んだ楽隊は、感動を高める曲目を演奏していた。


 黒髪の女は、自分は面倒なものに巻き込まれていると分かり、げんなりとした顔を見せる。だがその顔に"仲間たち"は気づかない。

「5人揃った俺たちは、無敵だ!」

 勇者が掲げた剣には、7つのドロップが挟まっている。それが虹色に煌めくと、場内に居た魔族たちがオオ……と感嘆の声を漏らした。

 渡りに船、黒髪の女はそれだけを思うと、バタフライナイフを取り出した。"仲間たち"も各々、武器を構える。

「ふふ、それでこそ勇者だ……! この私、"魔王"ツー・ドラッグ・ワークを倒して、アンダーアルスに平和を取り戻してみせよ!」

 楽隊が魔王戦用の音楽に切り替える。さあ、最終決戦のはじまりだ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます