no.16 タイダラ『タイダラ氏のバラバラ』

 狗が、唸っている。狗が咀嚼する音を、男は黙って聞いていた。

 タイダラ氏はすでにバラバラ。包丁と、のこぎりを、いくつもいくつもムダにしながら切り分けた。

 首や腕は簡単だったと男は述べる。胴体に比べれば、と後に続く。

 かくしてタイダラ氏は亡き者と化す。男はすぐに逮捕された。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇


「あざーっす」

 タイダラ氏殺人事件のラジオ放送を聞きながら、部屋の主は死体回収業者に声をかけた。ラジオが謳うのはリアルタイムの事情聴取。これらは取り調べの可視化のための施策だ。

「いやー、まさかうちの部屋がこんなにキレイになるとは」

 部屋の主はケラケラと笑う。死体回収業者の女は、それを黙って聞いている。

「タイダラ氏、いつかこうなるとは思ってたけどねー」

 雑談は続く。ラジオの向こうで容疑者が嗤っている。部屋の主もあわせて嗤う。

 死体回収業者の女は骨肉の詰まったバケツを手に玄関に立ったままだ。

「お宅、まだなにか?」

 帰ろうとしない業者を前に、部屋の主は眉をひそめる。部屋はすっかりキレイになった。彼女の仕事はもう終わりだ。


「足りなくない?」


 つば付き帽子を目深に被った女は、バケツをずいと持ち上げた。水色バケツにつまった赤は、なるほど、タイダラ氏の何%だろう。


「そりゃまあ、食べましたから」


 部屋の主の発言に、女は再び黙り込む。

「お宅の到着が遅かったしねえ。美味しい部分は、先にこっちで頂きましたよ」

 部屋の主の発言に、女は首を振る。

「食べかすは?」

「腕とか脚とか、硬い部分はお宅の持つそれ」

 部屋の主の発言に、女はぐっと目を細める。

「頭と体はだいたい食ったよ。血も骨も皮もうまかった」


 部屋の主は三角の耳をピクピク動かす。体毛の生えた頬を爪でかく。延びた鼻をピクピク動かす。開いた口の隙間から、ぬめった舌が覗いている。


「血も、骨も、皮も?」

 女が念を押すように尋ねる。

「腹の中」

 部屋の主の、狗は答える。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇


 煙をくゆらせながら、灰髪の男は黒髪の女を、グレゴリールームに迎え入れた。

「狗でも飼うのか?」

 女の抱えた狗を見て問う。

「胃袋取っても動くなら」

 そりゃどうかなと、煙が揺れる。試す価値はなさそうだ。

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