No.13 スーコ『スーサイドラグーン』

 水は適温。わたしは人魚。視界は悪い、濁ってる。紺のスカートが尾をひいた。底深く、水面光はどんどん遠く。きらきらきれい。


 わたしは人魚。きっとそのうち泡になる。とっても素敵。水温は低い、だんだん冷たい。視界は悪い、暗くなる。赤のスカーフがゆらゆらり。わたしはうまく泳げない。


 世界は暗い。濁ってる。わたしは人魚、とっても素敵。きらきら光る、落ちてくる、銀のリングがゆらゆらり。あれは私の宝物。彼からもらったプレゼント!


 くらくら揺れる。後悔の念。わたしは人魚? 手を伸ばす、リングをつかむ、未練をつかむ。きみの名前が泡になる。このリング、捨てたはずなのにどうして海に?


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 黒髪の女は炎天下で釣りをしている。餌は銀色の指輪で、標的はほどなく引っかかるだろう。

 通りすがりの釣り人が「嬢ちゃん、帽子もってきてないの?」と声をかける。女は何も答えない。

「熱中症になるよ!」

 親切な釣り人が告げるが女は睨むだけ。それでも釣り人はひるまない。

「嬢ちゃんもアジ狙い?」

 釣り人の問いかけに女は曖昧に頷く。それは夏の日の出来事だった。

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