ⅱ 黒髪の女はいっぱい殺す

no.11 サミュエル『紅茶好き』

 初老の男は紅茶が好きだ。好きだが種類に詳しくなくて、召使いに任せている。


「今日のは何だか苦いねぇ」

 ロマンスグレーの髪を弄りながら。

「でもこういうのも好きだ」

 召使いは一礼をする。


「今日のはとてもいい香り」

 仕立て直したスーツの裾を眺めながら。

「味も実に私好み」

 召使いは舌打ちを返す。


「ユニークなフレーバーティー!」

 ようやく覚えた単語を使う。

「種類は何かな?」

「バニラです」

 召使いは一礼をする。

 私がよく知るアイスに似てると男は笑う。


「なんて素晴らしい味だ」

 ある日サミュエルは絶賛した。

「明日もこれが飲みたいな」

 神妙な顔の召使い。


 翌日、男は撲殺死体で発見された。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 サミュエル様の遺体が消えたとその日の屋敷は大騒ぎ。泣く召使いたち、会社の部下、親しい友人を掻い潜り、遺体を背負った"召使い"は息をつく。

「どんな毒も効かないなんて」

 血がこびりついた爪を噛む。

「はじめからこうしておけば……」


 気まぐれで「苦しまないよう」と考えたが、無駄な努力だったのだ。

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