no.10 Comaに至らず

 鳥仮面をつけた『貴族種』は鮮やかに夜空を駆けた。コートがはためき、白い月光が虚ろなマスクの目の奥を照らす。『貴族種』は屋根に飛び移ると眼下を見た。闇をまとう黒髪の女は、今では月光の下にはっきりと姿を現している。


 女の奇襲は失敗したのだ。『貴族種』はあざ笑うかのように跳躍する!


 細く長い足を一発、HappyBulletが貫いた。しかし『貴族種』は痛みを感じていない。もう一発、黒に染まる足を弾丸が貫く。それでも『貴族種』は跳躍を止めない。黒髪の女は腕が悪い。いつまでたっても心臓を撃ち抜くことができやしない!


 パン、パン、と虚しい音、それと同時に宙に散るのは『貴族種』の金に輝く血液だ。舞うように夜空に発った『貴族種』は、しかし7発目の弾丸に撃たれるとガクリと力を失った。そのまま地に落ち、ドサリという嫌な音。


 黒髪の女は鳥仮面に駆け寄るとそのまま死体を蹴飛ばした。何度も何度も執拗に、何かをブツブツ唱えながら。夜の向こう側から『太陽』が姿をあらわす。それに銃口を向けたが、弾の数は心もとない。『太陽』は蠢く。彼女は舌打ちをする。女は足元の死体の手足を変な方向に折り曲げてからため息をつくと、身を翻して神域から出て行った。


 女は死体を伴わず、グレゴリールームに駆け戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る