no.06 カケル『万引き犯への断罪ではなく』
万引きをしようと盛り上がったのは、少し酒が入っていたせいかもしれない。
カケルたちはまず路地裏で順番決めのジャンケンをした。何を盗るかは個人の自由! 通りかかりのおばさんが一瞬だけカケルたちを見たがすぐに立ち去った。どこの高校の子かしらね……とブツブツ呟きながら。没個性の学ランなんて、すぐに判別がつくわけがない。カケルたちはそう言ってせせら笑い、タバコの吸い殻を道路に捨てる。
そうしてまず先輩がタバコを1カートンまるごと盗ってきて、次に部長がマンガを3冊パクってきた。後輩は情けないことに駄菓子がひとつ、あたり付きのフーセンガム! 情けない、俺が手本を見せてやるとカケルは立ち上がる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
路地裏を出てデタラメに曲がって、手頃な店を物色する。コンビニで盗ろうと思ったが、ちょうど出てきた"黒髪の女"に入口を塞がれた。女が退く様子はない。カケルは仕方なく順番を譲った。しかしどうしてか女はコンビニを出ない。来客を告げるメロディが途切れることなくコンビニの入口で響く。
一体何やってんだ?
カケルは女の顔を見た。
黒髪の女はニタリと笑った。
「やっと見つけた」
女は持っていたビニール袋をカケルに投げつける。ほのかな温かさと身に覚えがある弾力を感じる、この中身は肉まんだろうか、しかしそんなことよりも女の手には何故だか包丁! 刃物を伴って見覚えのない女がカケルに突っ込んでくる!
「なんだよ!?」
カケルの叫びに女は答えない。
「なんだよ、お前!?」
やはり女は答えない!
包丁を避けたカケルはバランスを崩してコンビニ前の駐車場に転倒した。女は包丁を構えなおすと改めて襲いかかってくる。カケルは情けない叫び声を上げながら女を突き飛ばすと路地裏へと急いだ。思えばコンビニの店員に警察を呼んでもらえば良かったのかもしれない。しかし、そもそも万引きするつもりだったカケルは『警察を呼ぶ』という最善案が使える身分ではなかったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
「たっ……たすけ、たすけ……」
息を切らして駆け込んだカケルを見て仲間は口々に叫ぶ。
「なに見つかってんだよ!」
「あれ包丁じゃね?」
「ふっざけんなよカケル! おいみんな逃げろ!」
仲間たちはほうぼうへ逃げて行く。まるで蜘蛛の子を散らしたよう。女は逃げまどう学ラン連中には目もくれず、カケルだけを狙って走りこむ。どうして、どうして!
◆ ◆ ◆ ◆ ◇ ◇ ◇
結局カケルは追いつかれて、夕暮れ色に染まる路地裏で、女に包丁で滅多刺しにされている。
「はやく、しね」
ザク、ザク。みんな万引きをしたのに、カケルだけなんて不公平だと思う。
「はやく、しね」
ザク、ザク。しかもカケルは未遂である。まだやってすらいないのに。
「どうして……おれだけ……」
喋ると口から血液が溢れ出る。
女は包丁を突き刺す動きを止めた。カケルの胸に立てたまま。
「お前を殺しにきたから」
「なんで……」
「必要だから」
カケルは体力には自信があったから、だからなかなか死ねないのかなと考えている。ただ痛い、ただただ痛い。ちゃんと死んであげるから、もう刺すのはやめてほしい……その時「お巡りさん、こっちです!」とおばさんの声。まだ遠いが、やがてここまでたどり着いてくれるだろう。
助かるかもしれないと思ってしまったカケルの額に、女は銃を突きつけた。
「無駄撃ちしたくなかったのに」
そんなモノがあるのなら、最初から使って欲しかった!
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