no.02 イヨリ『最期のメール』

 『生きていく自信がなかった』

 そこまで打って、削除、削除。

 『八方ふさがり』

 そこまで打って、削除、削除。

 『もうつかれた』

 そこまで打って、削除、削除。

 『ごめんね』

 そこまで打って、削除、削除。


 イヨリはもう何もかもを諦めた。でもさいごに、あの子にだけは何かを伝えようと思ってスマートフォンをいじっているが、いい言葉が思い浮かばない。よく考えれば最後に会った日、それなりにいい別れ方をしたじゃないか。笑って、ありがとうって、手をふって。ああ、それでいいや。イヨリは台座を蹴った。スマートフォンが落ちる。『ガシャン』。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 すでにイヨリは事切れていた。スパナを片手に部屋に入った黒髪の女は安堵の溜息をつく。首吊りとは賢明な判断だ、飛び降りよりも断然楽だ。そして聞こえる、階段を駆け上がる音。押入れの中に隠れると、ちょうど息を切らした女学生が飛び込んできた。イヨリを仰ぎ見て彼女は泣きじゃくる。「どうして」と。


 女は押し入れの中で目を瞑る。いつまでも続く泣き声を聞いていた。

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