地4

先程からドラゴン同士の空戦が続いている、圧倒しているのは単独かつ遅い方である。青いドラゴンがどれだけの速度で突撃しようと一定範囲内へ入った途端に吹き飛ばされ、風に斬り刻まれていく。つい数分前までは8.8cm高射砲の生き残りも交戦していたが、今は1門残らず沈黙し、真っ赤な夕焼けを背景に、取り囲むたくさんのボートに見守られている。


『戦争は終わりだ、俺はここへ戻ってきたし、操っていた奴も……倒された』


通信機から延々と流れてくるのは嘉明の演説だ、周波数をどこに合わせてもしつこく追ってくる、電源を落とす以外に逃れる手段は無い。


「提督」


「……」


「勝ちました、大樹も、艦隊もほとんどが無事です、喜ぶところですよここは」


『抵抗していた奴は直ぐに止まれ、竜に襲われてるなら建物へ入れ、隠れていれば襲われない』


「まさかあの老朽艦がここまで来るとは誰も思っていなかったでしょう、惜しむ事はありません」


ほとんどの水兵が空を見上げて空戦を眺める中、雪音だけが内火艇の座席に座ったまま床を見つめている。隣には穂高艦長がいるが、こちらは逆にすました顔。


「だから顔を上げてください、こっちまで泣きたくなる」


内火艇のすぐ傍に青の竜が墜落する、嘉明の放送は続く。


「沈むぞぉー!」


と、揺れる船上で沈黙する雪音の耳へ唐突にそれは届いた。


「……あぁ…」


ようやく顔を上げてみれば三笠は既に半分が海の中、前のめりに角度を増し、スクリューを天に向け、急速に沈下速度を増していた。全身を軋ませつつ艦橋を海面へ叩きつけて、目に見える速さで没していく。

もうもたない、確信した時点で雪音は立ち上がった。船べりまで行けば三笠を囲むボートが見え、誰に言われるまでもなく、退艦したすべての乗組員が立って敬礼している。


『……だがまだ戦っている奴がいる、戦争は終わったが奴には助けが必要だ』


それに混ざって雪音は頭を下げる、足先を揃え、45度を超えた位置まで腰の角度を持っていく。自身の長髪が床に落ち、その横にコツリと艦長の靴が立ち。


「ありがとうございました……!」


『お前達が奴を信じられるなら祈ってやって欲しい、それだけでも俺達には意味がある』


三笠の船体は海中へと消えていった。

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