第279話
「…………あれどうやって登るの?」
「幹の表面にエレベーターがあると思うから」
「エレベーター?それって普通のエレベーター?名前の前に軌道とか付いてないよね?」
恐ろしい事に普通のエレベーターである、ワイヤーで吊り下げるやつ。いつも通り騒ぎ出すかと思ったが、あまりにも常識とかけ離れてしまったか、聞いたメルは予想に反して乾いた笑いを漏らす。
根元まで残り2km、ここから先は森林地帯だ、乗ってきた2台とはお別れである。シオンと、ミニミを受け取ったヒナも同じように皇天大樹を見上げたまま引きつり笑いをしていて、22式は背後警戒、ムーンライトは機体左右の武装を上に向けて断続的に発砲している。
「フェイ」
『ん』
とりあえずすごい重そうだ、牛頭馬頭と格闘していたのと同一機体とは思えない。
左腕GAU-8アベンジャー、30mm7砲身ガトリングガン。元々は航空兵装だったが、対空装備として艦載もされている。毎分3900発の超連射は攻撃機から発射すれば戦車を地面ごと爆砕し、軍艦から発射すればミサイルを粉微塵に変える世界最強のガトリングガンだ、興味がある人は"A-10"で検索のこと。
次に右腕76mmコンパクト、こちらも艦載向けの両用速射砲となる、なんか車載もされてた気がするけど忘れてあげて欲しい。最大射程18km、最大射高11km、薬莢式の76mm弾を初速900m/sで毎分85発発射できる。左側のガトリングと同じく背中に予備弾薬を背負っているが、リンクレス給弾装置で繋がったドラム缶ではなく、輪切りのレンコンみたいなシリンダーがダルマ落としよろしく積み上げられており、射撃の際は下から引き出して装着し、レンコンを回転させる事で連射を行う。
とまぁ、その重量のほとんどは予備弾薬によるものであるが、とにかく重たいらしくあまり動きたがらない。
「アリ…エスのことだけど」
『良い』
「え?」
『頭撫でたくなるのも良かったけど今のはむしろ撫でて欲しい、いや膝枕して欲しい、縁側で膝枕しながらあの扇情的な声で囁いて欲しい』
「…………え……え?」
おう、おういきなり何だ、どうした?
『ああ…羨ましい』
「う、うん…実際本人に言ったら冷めた目されると思うけど……」
いきなりかっ飛んだ事を言い出したフェイ、やってる間も76mm砲を撃つのは忘れない。狙っているのは雲の上、おそらくレーザープラットフォームと呼ばれ始めたドラゴンだろう。それ以外には小型ドラゴンが山ほどいるが、見通しの悪い森林内部に入った途端、こちらには襲ってこなくなった、今はどこかしらの部隊をランダムで襲撃している。
『……まぁ、記憶の話をしようとしてるなら、それはあなたが気にする事じゃない。確かにアリエスは消えたんだろうけど、スズの時代までちゃんと残って誰かの役に立ったならそれでいい』
「そう……ごめんね」
『どうして謝るの』
何か別なのが出てくる前に先へ進んでしまおう、言いたい事もひとまず言ったし、呆れ笑い組にスズの時代の一般的な生活方法を話して聞かせて更に呆れさせているカノンと、シオンの肩をつつき、森の奥を指差す。
「もういいの?お母さんの話は」
「大丈夫、行こ」
「だそうで」
「オーケー。じゃあ私らは先に進みますよ!ここから支援をお願いしますねおばあちゃん!」
『ちょい』
「背後気をつけておばあちゃん」
『待った』
『誤射しないでよおばあちゃん」
『やめて』
「お彼岸には帰るから」
『やめてって!』
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