第280話

もし恐竜が絶滅せずに現代まで生き延びていたら、という話を聞いた事はあるだろうか。

まずそもそも間違えている、どこかで書いたが現生鳥類は隕石衝突を生き延びた恐竜が進化した成れの果てなのだから、厳密に言えば恐竜は絶滅していないし、例え隕石が無くともあんな巨大な爬虫類が今の地球の気候に適応できるとは思えないので、どっちにしろ鳥類に収束する可能性が高い。

と、まぁそんなロマンがあるのかないのかわからない話は蹴っ飛ばしておいて、"進化を重ねた恐竜は人間と同等の背格好と頭脳を持ち得る"というイフの話である。ディノサウロイドなどと呼ばれるものだが、人間そのままの姿形で皮膚がツルッツルの爬虫類というのはなかなかに気持ち悪い。とはいえファンタジーな話であればそう珍しいものではない、それはつまりリザードマンである。

日本語においては竜人と訳される事が多いこれはあまり古いものではなく明確な原典は無い。リザードマンを扱った創作作品は数あるが、密林や砂漠など高温地域に生息し、戦闘能力が高く、集団生活ができる程度の知能を持ち、左利きという点が共通する。作品によっては自らで衣服や武器、道具を作り、人間の言葉を介し協力ができる場合もあって、大体においては悪役とされる事は少ないように見える。


『左翼制圧!走れぇぇぇぇ!』


「ぬああぁぁぁぁぁぁぁっひ…!ひぃぃ……!」


しかしレーザーガンを装備して集団戦闘を仕掛けてくるリザードマンはそうそういなかろう。いや発射光を確認してからの回避行動で間に合ってしまう以上絶対にレーザーではないのだが、二足歩行するトカゲみたいな外観で、群青色の装甲を持ち、服は着ていないが同じ色と質感でアサルトライフルみたいなレーザー発射装置を握っている。


「ブラボー移動完了!撃つわよ!」


『よっしゃアルファは移動開始!』


対処方法は人間の軍隊とまったく同じ、ただ装甲があるので相手するのがすごく辛い。カノンのバトルライフルはまぁまぁマシ、皆のアサルトライフル等が使う5.56mmでは急所を狙わねばならない。スズのSMGは完全に威力不足だ、運良く目玉に当たって1体倒せたがそれだけである。


『こちらエドワード、敵戦力増大を確認、そちらからだと8時方向に当たる』


「ええぇこれ以上増えると押さえてられないんだけどぉ!?」


現状、スズが玉を4つ浮かべてずごんどこん撃ちまくる事で5対たくさんの戦いを対等に持っていっている。それを行うべく一度は着物姿になったのだが、数秒でそこらの枝にひっかけてビリッとやってしまったため、着物も尻尾もしまったままで玉だけ出せないんかとやってみた。


以外と出せた。


『ええい仕方ない!機甲2人!対地射撃準備をしてください!』


『オーケー、同時にやるぜ』


適度に茂った草むらに身を隠しつつカノンがセミオートで1発ずつ、威力の足らないヒナがほぼ休まず連射する中シオンとメルが背後を走り抜けていく。2人が遮蔽物を見つけて停止するやヒナはミニミに付いていた布袋を外し捨て、すかさずスズが差し出した布袋を掴んで取り付ける。詰まっていたベルトリンクを接続し終えた後、それが終わるまで発砲を続けていたカノンの肩を叩いて移動開始、同じように撃ちまくる2人を追い抜き返した。


『どこを撃てばいい?』


「樹の根元をなぞるように効力射をありったけお願いします!終わるまで私らは8時の敵に対処!』


地表に飛び出した岩石へ到着、身を落ち着け、砲撃予定位置から引き上げてきた玉が頭上を飛んで左斜め後ろへ向かっていく。改めて後方を見てみればだいぶ山を登っており、常に騒がしかったカノンが急に静かになったのはそこに原因があるのだが、まぁほっといて眼下の光景を確認しよう。遅れてやってきた米露連合軍のうちロシア軍車輌は空中のドラゴンへ対処しており、あらゆる斜面からレーザー掃射を受けつつ5人やそれぞれの歩兵を支援しているのはアメリカ軍のストライカー部隊である。ムーンライトと22式は集団中央、砲口をこちらへ向け調整している。


『射撃開始』


125mm滑腔砲と76mm速射砲と30mmガトリングガンが一斉に火を噴く、長大な外周を持つ皇天大樹の幹根元が端から端へと爆破されていく。轟音と地響きがしばらく続いた後、発生した黒煙が収まるまで待機、視界が戻ったので顔を上げれば、リザードマンは残らず消え失せていた。


『終了、行って』


「ひぃ…ひぃぃぃぃ……」


「泣かないのほらもうゴールだから!」


「あんねぇ…!辛いんだよぉ…!?森ん中でヘビ捕まえたり荒野を疾走しても涼しい顔だったのかも知んないけど辛いんだかんねぇ…!!」


終着地点までの敵は一掃された、後は走るだけである。どこか慣れた感じでカノンの尻を叩くヒナを先頭に移動を再開、シオンとメルが合流してからすぐに表面まで辿り着いた。

そのまんまだ、ちょっと焦げてしまっているがエレベーターも、枝上に並ぶ家屋も現実の皇天大樹と同一である。「ははははマジでエレベーターありやがるじゃねえですか頭わっるぅ!!」「乗ろ!早く乗ろ!」とかとかいつも通り騒ぎ立てるのでとにかく設備の状態を確認しよう、籠に損傷は無し、ワイヤーの張りもしっかりしている。しかしいつもは操作要員がいる操作盤を適当にいじってみると一切反応が無い、ランプ類も点いていない。


「電気来てないね」


「では発電機を動かしましょう、どこにあります?」


シオンが言うのでスズは真上に左手人差し指を突き上げる。


「…………」


籠と重りをワイヤーの端と端に取り付けて、それを最上部に引っかけ、モーターで上げ下げするのだから、発電機は最上部に決まっている。さすがに地表から大内裏の向こうまで直通なんてアホはやっていないものの、発電機のある乗り換えポイントは1km以上先。


『勾玉を貸してくれ、それと例のものを』


全員(カノンはへたりこんで地面を見つめているが)揃って天を見上げ沈黙してしまった頃、ニニギが急に言い出すので八尺瓊勾玉を出して投げ、それから例のもの、終末の戦場で苦労して手に入れてきた樹の芽を取り出す。


「何やんの?」


『遠隔制御を試してみよう。あとついでに、これは本物と繋がってる筈だ、血清を打ち込んでおこう』


姿の見えないニニギがふたつを受け取って表面まで行き、何をしたのかはわからないが樹の芽は表面へ押し込んで消してしまった。そうしたらすぐに勾玉が発光を始め


『……うん?』


急に、白い布を身に纏った金髪のイケメンが実体化した。


「あれ…どうして……」


「イケメンだ」


「え?」


「イケメン」


「イケメンがいる」


「イケメンにな……」


「かなりイケメンだよこれ」


「ええと…?」


「面食いだよ?」


「でもイケメン」


「自分がイケメンならそりゃ」


「イケメンだし」


「女の敵だよ?」


「いやそれ……」


「…………………………審議!審議!」


「待ってやめて!単なる誤解で!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る