第125話

皇天大樹地表東側上空

甲式四型戦闘機

小野 洋太(おの ようた)陸軍少尉




「何だ…?」


大樹の枝先で妙な爆発が起きた瞬間、無意識に自らの手は操縦桿を引いていた。

敵の隠れる防風林へ行おうとしていた機銃掃射を中断し、高度を取りながら爆発地点の観察に集中する。戦闘中である以上反撃を受けるのは極めて当然の事であるが、少なくともそれは下からの砲撃を起因とする爆発には見えなかった。僚機の搭乗者はさして気にしていなさそうだったが、やかましいエンジン音混じりの無線で攻撃の一時中止を指示、機体を傾けて機首をそちらに向ける。

その違和感が正しかったのはすぐ証明された、爆煙を吹き飛ばしながら異形の航空機が飛び出してきたのだ。詳細がわかる距離ではないものの、背景との比較では小野が乗る甲式四型、本家名称NiD29より2倍の大きさはある。常識外れという言葉すら生温い形状をしたそれは翼に頼らず真上に着けた馬鹿でかいプロペラで直接機体を浮かせているらしく、信じがたいことに空中で静止しており、その後機体丸ごと傾ける事で加速、こちらへまっすぐ向かってくる。


『司令部より全航空隊へ、敵がこちらの兵器を奪って逃走した、直ちに破壊せよ。相手は遺物だ、何をしてくるかわからん、十分注意して当たれ』


距離1kmまで詰めた時点で無線機はそう言ってきた。ならば迷う必要は無い、追従する僚機を左へ行かせ、自身は右へ。まっすぐ東進する謎の航空機をやり過ごした後、それぞれ捻りこんで背後を取る。甲式四型に搭載される7.7mm機銃2挺を喰らわせてやろうと射線に捉え

その直後、右にいた僚機がいきなり弾け飛んだ。


「馬鹿な!?」


何が起きたか理解できなかった、最初は別の敵機が後ろにいるのかと思ったが、気付けばソレはこちらに機首を向けていた、進路を東に向けたまま機体先端を西に向けているのだ。爆発し四散しながら落ちていく僚機を見開いた目で眺め、だがすぐに思い出す、奴がああなったなら次は。


「づぅ…!」


必死の回避行動を行うも、人間が狙っているとは思えない精確無比な射撃は1撃目で小野の甲式四型を捉え、最低でも15mmはある強力な弾丸がその翼をちぎり飛ばす。瞬く間に錐揉みに陥って、すぐさまシートベルトを解除、制御不能となり火災を起こした機体から脱する。あまりに連射が速すぎて何発撃たれたかわからなかったが、敵機下部のガトリングガンが発光したのはコンマ数秒で、命中したのは2発だけだった。


「こちら小野少尉!全隊に警告願います!敵機には迂闊に近付くなと!」


なんとか持ち出した無線機で司令部へと叫び、背負っていたパラシュートが完全に開いた頃、甲式四型は僚機と同じ末路を辿り、

そして謎の敵機は味方地上部隊の蹂躙を始めた。

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