狸と鴉の鎮魂歌

第25話

恨んでなどいないと、それだけ伝えたい。

言う事を聞かぬ身体を止め、喚き立てる口を御して。

恨みも憎しみも後悔もないと。

そうしなければ、きっと君は自らを呪うだろう。

それでは前には進めない、明日は永久にやってこない。

前だけを見ろ、後ろの事はもう気にするな

恨んでなどいないから。

それが唯一つの




















少女は街外れにいた。

足を動かす度に真っ赤な血が落ちていく、右手で押さえる腹の傷から、肩に刺さった何かの破片から。

道を血で汚しながら少女は歩く、行き先もなく、足を引きずるようにして。


ーおい、こっちに来るぞ。ー

ー見たら駄目よ、関わったらこっちまで。ー


どうして、と、聞きたいのはそれだけだ。

傷付けられた事ではない、誰も助けてくれない事ではない。

何もせず、何も関わらず、ただ静かに暮らしていたかった。それだけが願いであった筈なのに、どうして世界はそれを否定するのだろう。


ー取り逃がしやがったな、中途半端な事すんなよ、どうせやるなら。ー

ーそのうち動かなくなる、ほっときゃいい。ー


ぼとりぼとりと血が落ちる、同じ分だけ寒さが襲う。

冷たい、手が、足が、頭が、心が。


ー早く死ねばいいのに。ー

ー早く死ねばいいのに。ー


冷たさに耐え切れず、少女はその場に倒れ伏した。

ここまでだ、歩き続けても結果は変わらない。足を動かすのをやめ、腹の傷を押さえるのをやめ、生きたいと願うことをやめた。ごろりと仰向けになり空を見上げる、天では星が輝いていた。

胸に残っていた最後の熱が失われていくのを感じながら、少女はゆっくりと目を閉じて。


世界が真っ黒になる間際。

見慣れた、落ち着く姿が見えた気がした。

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