「える先生」

この教室には50人近くいるはずなのに、誰も私語をせず聞こえるのは咳払いくらいで、皆一様に伏し目がちだった。僕が見た範囲では女性は1人も確認できず、年齢はやや年上が多いという印象だった。

「はぁ〜い。みなさん、おはよーございまぁーす♪」

「…」

「あれあれ〜?声が小さいぞ。もう一度元気良く。おはよーございまーす!」

「ぉ、ぉはょぅござぃます…」

「もっと自分に自信持とうよ!みなさんは選ばれたメンバーなんだから。アハハ!」

"選ばれた"というワードをやたら強調する言い方で、教壇に立つこの陽気な女性が先日僕をスカウトしたあのサングラスの女性と同一人物だと分かった。

「申し遅れました。私はこのクラスを担当することになった、草生(くさは)えるです。気軽に"える先生"って呼んでね。年齢は24才で、スリーサイズは上から88、59、97です♪」

僕は思わず顔を上げグレーのパンツスーツに身を包んだえる先生の胸部、腰部、臀部を順に追いかけたが、視線を感じてすぐに目を伏せた。

「私が詳細な自己紹介をしたんだから今度はみなさんが自己紹介をする番ね。でも人数が多いから1人1分以内でお願いします。自分の名前、年齢、出身地はマストで。それじゃ窓側のキミから、どうぞ♪」

新しいクラスメイトの自己紹介が半分近く終わったあたりで、この教室にいる生徒の合計人数が47で、各都道府県から集められた47人だと気付いた。そして僕の番が回ってきた。

「や、山口県出身、つ、土田ねんどです。じ、14才です。しゅ、趣味は、趣味は、将棋の棋譜並べです…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る