「選ばれた子」

「あなたより面白くない人を教えてください」

僕がこの質問に答えるのは、これで三度目になる。一度目は下校時のショッピングモールで。二度目はパスワードを登録する際の入力画面で。そして三度目は始業のチャイムが鳴り響く中学校の教室で。僕は長考した後、いずれも「わかりません」と記入した。今まで自分と他人を面白いか面白くないかで比べたことなど無かったし、そもそも他人を笑わせたことが一度もない自分が、クラスの面白ヒエラルキーの上層部にいるはずもなく、本当に自分以下の人間が思い浮かばなかったのだ。全校生徒に奇妙なアンケートを取ったその日の夜、全国ネットの人気テレビ番組でこの質問を元にしたと思われるコーナーが始まった時は、さすがに変だなと思った。


「国際疾病調査局?」

奇妙なアンケートに答えた数日後、黒服に身を包んだサングラスの女性から渡された名刺には、難しそうな漢字が並んでいた。

「いきなりのことで申し訳ありませんが、本日から土田ねんど様は当局が管理するお笑い専門学校に転入することになりました。既に諸々の手続きや親御さんの許可も取ってあります。残念ながら拒否権はございません。これは国からの命令です。あなた様は選ばれたのです。」

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