草、生える
シンジくん
「よく笑う子」
誰もが認めるお笑い王国ブラジル。FIFAお笑いランキング15年連続1位。僕が生まれる前から1位に君臨し続けるお笑い界の絶対王者。
「今年は175位か…」
毎年4月に出版される『国際お笑い年鑑』の下の方に小さな文字で書かれた「日本」を見つけた。
横隔膜の異常痙攣による死者が最初に報告されたのが今から8年前。現在も有効な治療法は確立されておらず、患者は外界から遮断された真っ白な部屋に隔離され、人知れず笑いながら死んでゆく。国際疾病調査局によると日本国内だけでもこの病で毎年200人以上亡くなっているという。
確かに彼女はよく笑う子だった。会話らしい会話をしたことは一度も無いけど、同じ教室にいた人は皆、彼女の笑い声を覚えている。それくらい特徴的な笑い声だった。
その日は体育の授業でバスケットボールの試合をすることになった。「僕にパスするな!」とあれほど念じていたのに、何故かボールが回ってきて、見様見真似で放った僕のロングシュートは虚しく空を切った。
早々に選手交代を告げられクラスメイトに不格好な姿を晒してしまったショックで、僕が「その音」に気付いたのは、既に人集りが出来てからであった。いつの間にか体育館からバスケ特有の音が消え、ギャハハという彼女特有の笑い声が響き渡っていた。確かに彼女の笑い声ではあったけど、全身を痙攣させ口から泡を吹く姿は、溺れてる人のように見えた。彼女の笑い声と近付いてくる救急車のサイレンが奇妙な不協和音を奏でていた。
その日以来、教室から彼女の笑い声は消えた。
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