第32話 殺戮悪魔 その1
100年前
魔女モールスと呼ばれる人物は、ただの根暗な悪戯好きのお婆さんだった。
子供の目を丸くする顔、貴族の腰を抜かす顔、彼女は人の驚く顔を何よりの楽しみとした。
彼女はこの世に魔力があり、悪魔の存在の構造まで解明し、悪戯に利用した。
自身の事を悪魔を支配する魔女と名乗るまでになったが、12匹の強大な悪魔に悩まされるカルデラ国の状況に対して、それは時期が悪すぎた。
モールスは、悪魔を先導したというあらぬ嫌疑をかけられてカルデラ城の兵士に拘束され、デシベル王の前に謁見することとなった。
モールス「おお、あなた様がカルデラ国最高の王と名高いデシベル王か・・・このような老婆にあらぬ疑いをかけて鞭を打つなど王の名に傷が付きまする。」
大臣「黙れ、王に対して無礼であるぞ。貴様が犯した罪は明白である。貴様を処刑すれば悪魔により引き起こされる厄災は鎮まるであろう。」
モールス「はははは、これはおかしい。私ごときの首を落としたところで何も変わりますまい。この国は悪魔に対してあまりに無知ではないか。」
デシベル王「・・・ならば、そなたには何か悪魔に対抗する妙案があるということか?」
大臣「王!このような者のたわごとを聞いてはなりませぬ。」
デシベル王「・・・どうだ?」
モールスは少し考えて口を開いた。
モールス「・・・つい先日、面白いものを手に入れました。それを用いればあるいは・・・悪魔をどうにかできるやもしれません。」
それは白い剣で悪魔の魔力限界までを弱らせてから、封印の壺で100年間封印するという方法であった。
魔女モールスの組織した悪魔討伐隊は次々と悪魔を封印していった。討伐隊からはたくさんの犠牲が出た。白い剣の使用者は1年で謎の変死をとげたが、たくさんの犠牲の影に隠れてしまい不審に思う者はいなかった。
デシベル王直属の騎士団からも多数の犠牲を出す中で最後に討伐隊に加わったのが神剣アーシェ卿であった。6匹討伐後から参加し。白い剣を持ち単身6匹の悪魔を退治した。
モールス「女であることのハンデを微塵も感じぬその動き、やはり、お前は天才だ。」
アーシェ「それはどうも、・・・ところで私の命はあとどれくらいもつの?」
モールス「な・・・なんのことだ?」
モールスの表情がみるみる青くなった。
アーシェ「とぼけても無駄よ。白い剣の使用者は命が長くもたないんじゃない?心臓に魔力が蓄積するようなわだかまりを感じる。」
モールスはあたりに誰もいないことを確認して口を開いた。
モールス「ははは、やはり、お前は天才だ。今まで12匹の悪魔を退治してきたが、この白い剣の事実に気がついたのはお前だけだ。今までの使用者の前例から言うと1年程度といったところじゃ。」
アーシェ「治すことはできないの?」
アーシェの空気が変わったことを感知したモールスは恐れおののいた。
モールス「・・・・できぬな、一度心臓を取り出して魔力を取り除かない限り、お前は生き延びられぬ。」
アーシェ「そう・・・」
アーシェは悲しい表情になった。
モールス「わしを殺すのか。」
アーシェ「いいえ、あなたを殺しても私は助からない。」
アーシェ「私の命なんて取るに足らない犠牲よ、6匹の悪魔を退治したことでお父さんの将軍への昇格が決定したはずだから・・・」
モールス(哀れな娘だ。お前の父親は娘の命を犠牲にしてまで出世したいとは思わないだろうに・・・しかし、まずいな、事実を知ったこの娘を一刻も早く始末しなければ・・・私が王に処刑されてしまう。)
悪魔討伐隊は、数日かけて、帰路に付く途中であった。
2,3日後、アーシェの体調はますます悪化し、体中に激痛が走った。
アーシェ「あああああ、ああああ」
体中に魔力がひた走り、近くに飾ってあった枯れた花の花瓶に手を触れた瞬間、おかしなことが起こった。
枯れた花がみるみるうちに以前の美しい花に戻っていくのだった。
まるで時間を巻き戻るように枯れた状態から、満開の状態、さらにつぼみの状態に変化した。
アーシェ「・・・・これって・・・」
その一部始終を見ていたモールスは戦慄した。
モールス「なんということだ。悪魔とは長年魔力を浴び続けた生物のごく一部が変異した生物のことだと考えていたが、白い剣で急激に魔力を吸収した者の中に悪魔化する者が出るとは・・・」
アーシェ「私が・・・悪魔に・・・」
アーシェは混乱している。
モールス「そうだ、お前は悪魔になったのだ。いくら殺しても死なず、永遠に自らの欲望のために人を苦しめ続ける悪魔にな・・・」
モールス「まずい、まずいぞ、私がますます悪魔の親玉であると疑われてしまう。・・・そうだ。お前を封印しよう。まだ、生まれて間もない力の弱い悪魔のお前ならば封印することもたやすい」
アーシェ「だめ・・・待って」
アーシェは痛みで体が動かなかった。
モールスが呪文を唱えるとアーシェの体は大きな壺の中に封印されてしまったのだった。
それでも、私はかまわなかった・・・お父さんさえ幸せになれたのなら・・・
100年後
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